【あらすじハリケーン】

球技大会の影のMVP・関口。ヒロユキに急接近してきた彼には思惑があった!

勇気をだしてカミングアウトした関口だったが、もっとも聞かれてはいけない人物の耳に届いてしまった。そう、その人物とは・・・・


『第11話 ワールド・オブ・サーベルタイガー』

「俺の名は霧島大河。サーベルタイガー先輩と呼んでくれ!」

小太り君(「猪八戒」と名づけよう)は、激しい戸惑いと少しの恐怖がこもった目で俺を見ている。
うむ、見るからにオタク少年だ。細い目の中にある輝きは、何かに夢中になれる人間だけが持つ光だ。

そんな光を持つ人間のことを、俺は「持っている人間」というように分類をする。そしてそういう奴には必ず敬意を払う。憧れる、といってもいいかもしれない。

俺の使う「持っている」という言葉の意味は、他の人が言うのとは少し違う。
思い返せば、俺自身もこれまでの人生において何かをやるたびに、周りの大人や友人達に「持っている奴は違う」というようなことを言われてきた。彼らは、俺の才能や運気への賞賛と羨望、あるいは妬みを込めてそう言うのだろう。

しかし言い切れる。俺は何も持ってなんかいなかった。あらゆる競技で結果を出そうとも、心は満たされない。からっぽのままだった。
もちろんどんなジャンルの競技にも真剣に取り組んでいた。それでも渇きを癒せなかったのは、決して“本気”にはなれなかったからだ。

ひとつのことに没頭し、その道を極めようとする対戦相手の目を、俺はまともに見ることさえできなかった。そういう奴らに睨まれると、とてつもなく惨めで恥ずかしい気持ちになってしまうのだ。
彼らの持つさわやかで眩しい輝きが、自分には無いことを自覚していたから。

スポーツであろうと、アニメやゲームであろうと、それにのめり込む者の持つ情熱というのは、常人が気まぐれで発揮する「やる気」なんてものをはるかに凌駕する精神エネルギーなのだろう。
そんな精神エネルギーが充満し、ぶつかり合う世界に俺の居場所なんてあるはずもなく、俺はあらゆるものに手を伸ばし続けた。居場所をさがし続けた。

そして見つけた。俺の血液を沸点までたぎらせることのできる唯一のステージ、「二人三脚マラソン」の世界を。

それからだ。かつて他人に見ていた黄金の輝きを、鏡に映る自分自身の瞳から感じ取ることができるようになったのは。うむ、窓に映る今日の俺も眩しいぜ。

・・・・・だが、今ひもゆきと一緒にいる猪八戒クンが憧れを感じてしまうほどにその輝きが増していたとは、思いもよらなかった。
俺のようになりたいと望む、この少年の男を磨く手伝いをしてやれるようになるなんて。

しかも、こいつは「持っている」奴だ。俺のどこに惹かれたのかも分からないし、できることなんてほとんど無いかも知れない。
だが、できる限りのことはしてやりたい。彼の情熱に敬意を表して。

・・・そうか(豆電球)。
これは俺とひもゆきのために始めたことだが、彼の成長にも役立つに違いない。根拠は無いが、きっとそうだ。
俺はポケットから出したわら半紙を広げ、猪八戒の眼前に掲げて言う。

「猪八戒、お前のために俺たちが一緒に今週末の相撲大会に出てやる!まずはそこでお前の覚悟を見せてくれ!!」

うろたえる下級生2人に、届け!俺の思い。


つづく