ミネソタ・ハリケーン


クラスメイトの一人に、『関口宏』という人物がいる。そう、あの某有名フレンドパークの支配人と同姓同名の男だ。しかし仕切り上手な関口さんとは違い、1年F組の関口は無口で小太りで、眼鏡で、聞いたことも無いメーカーのリュックを背負って学校に来て、ライトノベルばかり読んでいる。典型的な根暗キャラといえよう。 

そんな彼だが、球技大会(ソフトボール)が終わってからは”大魔神“の愛称でクラスのみんなから親しまれている。あの時はエース吉岡の神がかり的な豪運により優勝できたように思われがちだが、準決勝・決勝での関口のピッチングも凄まじかった。

その際にバッテリーを組んだおかげか、関口はやたら僕に絡んでくるようになった。前髪が長くて無口な僕に同族意識を感じているのだろうか。しかし残念ながら僕には彼の話題についていけるほどマニアックな知識は無く、トークが弾むことはめったにない。

それでも彼は飽きもせず僕に話しかけてきてくれ、何冊かライトノベルまで貸してくれた。なんと2冊目以降は僕の要望に応えてブックカバーまでつけてくれた。(それっぽい雑誌の応募者全員サービスで貰えるようなブックカバーだったので全く意味はなかったけれど。)

関口の薦めるものは、吉岡オススメの品々とは違った趣のある作品が多く、僕のライトノベル観を大きく変えてくれたことを感謝したい。

だが、何故僕にこんなに良くしてくれるのだろう。その疑問は募る一方だった。もちろん友情に理屈などないのは分かっているけど、関口のようなタイプの人間とネット世界以外で親しくなるのは初めてだったので、すこし戸惑ってしまう。


____その疑問が解消されたのは6月の終わり。今年初めての蝉の声が聞こえた暑い日だった。

中間テストを目の前にした峰曽田学園の生徒たちは皆、
「やべえ」
「マジやべえよ」
「いや、私の方がやばいって。実際」
などと、自らのやばさ加減を口にせずにはいられなくなっていた。
もちろん僕は、自分が今どのくらいヤバイのかさえ知らないほどやばい状況である。

短縮授業日程にして勉強する時間を設けてくれようとする学校の計らいは有り難いけれど、どうせ家に帰っても勉強しない僕は、その日もいつものように相撲部の部室に足を運んでいた。

相撲部に入部して(させられて)から、毎日のようにサーベルタイガー先輩と相撲を取っているけれど、未だ勝ち星なし。負けるたびに支払う10円も馬鹿にならないので、何か良い作戦はないものかと考えながら歩いていると、後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「わ、渡辺君・・・」
くぐもった声で僕を呼びとめるのは、文脈的に考えて関口しかいない。

走って僕を追いかけてきたのだろうか、眼鏡が曇っている。少し申し訳ない気分になっていると、目の前の大魔神・関口が話し始めた。

「あの、その・・・えっと・・・。実は、俺、その・・・き、霧島さんに…その、あの・・・憧れてるんだよ!渡辺君は、霧島さんと親しいだろ?だから、その、協力してほしいんだ!」

しばし沈黙。
ん?彼は何を言っているんだろう。よくわからない。もう一度分かりやすく説明してくれるように頼もうとした瞬間、聞きなれた声が聞こえてきた。

「話はよーく分かったよ、猪八戒。俺に任せてくれ!!」

僕の言おうとしたことと正反対の発言をした男はこう続けた。

「俺の名は、霧島大河。サーベルタイガー先輩と呼んでくれ!」

・・・その場の空気が凍りついた。関口の額から流れる大量の汗だけが、時が止まっていないことを教えてくれる。

僕の名前は渡辺ヒロユキ。オイラ、キューピッドになんてなれるのかな。

つづく


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