石破さんが総理になった | フィりフヨンカのひとりごと。

石破さんが総理になった

 

 

水曜に入院した佐藤さん。

 

腹腔鏡で胃の三分の二を切除する手術は六時間かかり、

待合室で ただ座っているだけの私の六時間。

本を読み 屈伸運動をし 水筒のお茶を飲み 部屋の中をうろうろ歩き 肩をまわし・・

清掃の人が 廊下を何度も行き来しながら丁寧に掃除しているのを横目に、

ああ 代わってほしい 手伝わせてほしい などと思う。

なにもすることのない、待つだけの時間というのは 働くより疲れる。

 

午後からは 総裁選の中継をテレビで見ながら過ごし

部屋には私しかいないことだし (ちょっとだけ)とソファーに横になったら うとうと・・

気がついたら 石破さんが総理になっていた。

 

夕方 部屋の電話が鳴る。

取るべきか 勝手に取ってもいいものだろうか と迷いつつ 

私しかいないので、仕方なく取る。

主治医の先生の声で 「手術は無事に終わりました、こちらで少し説明しますのでいらしてください」

 

トレイに入れられた 佐藤さんの胃を眺める。

胃は くつろいでいて でれんと そこに寝そべっている。

緊張感というものが まるでないけど 

わたしは胃です と 自己主張はしている。

 

朝まで佐藤さんのお腹の中に納まっていた臓物を見ている不思議よ。

これは このあと 捨てられるんだね お経だの別れの儀式だのもなくバイバイするんだね。

なんとなく不憫で そっと心の中で感謝の念仏を唱えておいた。

 

また1時間ほど待って ようやく佐藤さんが手術室から出てきた。

HCUに私も一緒に入った。

黙っていたら 看護師さんが「なにか言葉をかけてあげてください」と言うので

「石破さんが 総理になった」と報告。

佐藤さん 「そうですか」と酸素マスクをつけた白い顔で応える。

 

こういうとき なんて言葉をかけたらいいんだろう

おつかれさま

無事に手術が終わってよかった

よく頑張ったね

 

などと 言うべきなんだろうけど

どうもね

なんか そんな ひらべったいこと 言えない。

ほんとは ひとつ聞きたいことがあった。

途中、お花畑って 見えた?

あまりに不謹慎なので 言わなかった。

 

 

 

ようやく 病院の外に出て 空を見た。

「空は ひろいなぁ」

 

今日も 佐藤さんが一般病室に移動するというので 行った。

白かった顔は ゴルフ焼けの黒い顔に戻っていた。

昨日 聞けなかった お花畑のことを聞いたら

「いや まったく なんにも見えなかった」と まじめに答えた。

「ふぅーん そう」

ちょっと見えたけどそっちにはいかずに帰ってきた という答えを聞きたかったな。

 

看護師さんに「午後からは歩きましょう、頑張って歩きましょう」と言われていた。

佐藤さん しぶしぶの顔して「うーーん 歩けるかなぁ・・」

と、情けないことを言うので

「火事だ!と言ったら ぜったい歩くね、歩けなくても歩けるんです 歩けるもんです」と、病室をあとにする。

 

病院の外に出た。

ああ やっぱり 空は ひろいなぁ。

 

いろんなことがある。

生きてれば いろんなことがある。 

やがて それらは すべて過去の思い出というものに変化していく。

年つきというものは

身に起こったすべてのことを おぼろに包んで 柔らかく愛しいものに変えてくれる。

どんなことも みんな。

 

なんにも くよくよすることはない。

空は やっぱり 広くて大きい。