芝居「やくざ巡礼」《「剣戟はる駒座・倭組」座長・不動倭・平成25年11月公演・千代田ラドン温泉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

全国に150ほどある「大衆演劇」の名舞台を紹介します。

   劇団のパンフレットによれば〈2013年9月より一座刷新の為、二座構成に改成した剣戟はる駒座。津川竜を総座長、勝龍治を総裁とし、二座の指導・育成に当たります。津川鵣汀・不動倭がそれぞれの座長に、津川しぶき・津川隼がそれぞれの副座長に昇格します。二座が二劇場それぞれ独立した形で公演する事により益々パワーアップする剣戟はる駒座にご期待下さい!〉ということである。なるほど、そうだったのか。だとすれば、これは単なる「暖簾分け」ではない。いわば鵣汀組が「本店」、倭組は「支店」ということ、「剣戟はる駒座」が「益々パワーアップ」を図れるかどうか、固唾を呑んで観劇しなければなるまい。芝居の外題は「やくざ巡礼」。兄貴分の佐太郎(勝小虎)の留守中に、その女房・おみね(芸名不詳・女優)を「物にしよう」とつけ狙う親分(ゲスト出演・ビリケン)と衝突、はずみで親分を刺殺してしまった富蔵(座長・不動倭)の物語である。子分たち(勝彪華・他)から「間男」の濡れ衣を着せられて、凶状旅に出ようとする富蔵に向かって、おみねが懇願する。「どうか私と倅の新吉(芸名不詳・子役)も連れて行っておくんなさい」。「それはできねえ」といったんは断ったが、よくよく考えれば大切な兄貴の女房と息子、守ってやれるのは自分しか居ないと、同行を承諾した。以後は、どこか「沓掛時次郎」の景色も添えられて、女、子連れの難行苦行が続く。終には、立ち寄った宿でおみねは病死・・・。やむなく富蔵は新吉の旅支度を整えて、祖父母宅への一人旅に送り出す。新吉を演じた子役、手甲・脚絆の巡礼姿になったとき、目にいっぱい涙をためての名演技、富蔵も涙、客席も涙、涙、涙・・・。「お見事!」という他はない。やがて、子分たちから「間男」の話を聞かされて、佐太郎が駆けつける。問答無用で斬りつけたが、富蔵は自刃。「こうでもしなければ、兄貴は俺の話を信じてくれないだろう」。佐太郎「すまねえ」と悔やんだが後の祭り、立ち戻った新吉を抱きしめながら、富蔵は絶命する、といった筋書きで、さすがは「剣戟はる駒座」、その名に恥じない名舞台であった、と私は思う。役者一同は、今回も「ピンマイク」を使わない。棒立ちの脇役は皆無、それぞれが、自分の役割を「表情」「所作」で精一杯果たしている。倭組、支店とは言え、今後の益々のパワーアップは間違いないだろう。とはいうものの、不動倭、勝小虎の魅力は、あくまで本店の中で輝くことができることも忘れてはなるまい。これまで、不動倭には晃大洋、勝小虎には津川竜という、力強い「後ろ盾」があったのだ。観客(私)は双方の「阿吽の呼吸」「絶妙のコントラスト」を楽しむことができたのに・・・といった「一抹の不安・淋しさ・無念さ」を払拭できないこともまた事実なのである。「動」の倭、「静」の小虎、合わせて「侠」「剛」「朴」は倭、「粋」「爽」「艶」は小虎といった分担が功を奏し、その曼荼羅模様が楽しめたら、などと身勝手な思いを抱きながら帰路に就いた次第である。今後の精進・活躍に期待する。

 

 


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