芝居「木曽節三度笠」《「鹿島順一劇団」(座長・鹿島順一)平成25年3月公演・湯ぱらだいす佐倉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

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  芝居の外題は「木曽節三度笠」。私が。この芝居を見聞するのは3回目だが、その間、配役に大きな変化はない。ある材木問屋の若旦那・新太郎に花道あきら、その弟(といっても腹違い)喜太郎に三代目鹿島順一、喜太郎と相思相愛の娘・おきぬに春夏悠生、材木問屋の女主人・喜太郎の母に春日舞子、仇役・鮫一家親分・五右衛門 に甲斐文太、その子分たちに赤胴誠、梅之枝健、幼紅葉、壬剣天音、という、不動の面々である。そのためか、舞台模様には寸分の隙もなく、今日もまた珠玉の名舞台が展開されていた。筋書きは単純。できの悪い兄・新太郎と、できの良い弟・喜太郎が、可憐な娘・おきぬをめぐって対立する物語。喜太郎とおきぬは「相思相愛」、末は一緒にと約束していたが、兄の新太郎もまた、おきぬに恋している。それを知った母親は喜太郎に「おきぬのことはあきらめなさい」と説得する。なぜなら、この親子、今は亡き材木問屋の主人に拾われて、現在に至っている。「大恩あるお方のためならば、命を捨てたって報いなけれなならないのが、人の定め。新太郎さんは御主人様の忘れがたみ、ここはおまえが退かなければなりません」。喜太郎は「生木を裂かれる」思いで、旅に出る覚悟をしていたがそんな折も折、おきぬが鮫一家の子分衆に囲まれた、「親分が、手つかずの生娘を連れてこい」との由。そばに居合わせた新太郎、必死におきぬを守ろうとしたが、歯が立たない。連れ去られようとしたその時、飛び出してきたのが喜太郎。そうはさせじと、子分衆に立ち向かう。相対したのが、たこの八(壬剣天音)、匕首で斬りかかり、しばらくもみ合ったが、結果は意外にも喜太郎の勝ち・・・。人を殺めてしまった恐ろしさに呆然とする姿が、一際絵になっていた。「すまない。私たちのために、こんなことになるなんて・・・」と謝る新太郎の言葉を背中に聞きながら、喜太郎は凶状旅に出立する。二景は(それから数年後の)材木問屋の店先、今では家督を新太郎夫婦(妻はおきぬ)に譲り、隠居の身となった女主人が、鮫一家親分・五右衛門と話をしている。「新太郎さんが、ウチの賭場に遊びに来て、150両の借金をこしらえた。分割でもよいから返しておくんなさい」。女主人、寝耳に水の態で「私は、新太郎さんから何も聞いておりません」と突っぱねるが、脇に控えていた子分の一人・鰯の某(赤胴誠)が「何だとこのババア!親分が嘘をついているとでもいうのか」と凄んで、つかみかかかろうとする気配。五右衛門、静かに制して「ウチには、こんな短気な野郎がいるんで危なくていけねえ。まあ、あっしが来たことだけは、新太郎に伝えておくんなさい」と、念書を置いて退出する。鰯の某、「オイ、ババア、喜太郎がこの近くまで戻ってきているらしい。帰ってきたら、必ず(たこの八の)仇を討ってやるから、そう思え!」と捨て台詞を残して出て行った。やがて、おきぬ登場、新太郎と祭り見物に行ったが、人混みに紛れて独り帰宅した様子、「おっかさん、ただいま。お茶でも入れましょう」と言っているところに、新太郎も追っかけて帰宅、「なんだねえ、おきぬ。わたしを置いてどんどん帰ってしまうなんてひどいじゃないか」などと愚痴る姿が、夫婦の「不和」を浮き彫りにする。「二人でまた、私の悪口を言っていたんでしょう」という言を遮って、女主人「さっき、鮫の親分が来て、これを置いていきましたよ」。新太郎、一瞬ギクッとするが、念書を見て平静を装い「なんですねえ、150両くらいの端金、すぐに出してやればいいものを・・・」などとノーテンキなことを言っている。「おまえさん、ウチには、もうそんなお金はありません」と言うおきぬを急き立てて奥に入ってしまった。独り残された女主人、嘆息して「いったい新太郎さんはどうしてしまったんだろう。こんなときに喜太郎が居てくれれば・・・」と独りごちして仏壇に手を合わせれば、「おっかさん!」という喜太郎の声が聞こえた。振り返ったが姿は見えず、気のせいかと再び仏壇に向かったが、「おっかさん!」、今度は、はっきりと姿を現した。女主人、母の風情が蘇って「喜太郎!帰ってきてくれたのか」と喜べば、「おっかさん、お久しぶりでござんす。それにしても、ずいぶんおつむに白いものがふえましたねえ・・・」と、抱き寄せる。縞のカッパに三度笠、以前とは見違える喜太郎の姿は、一際あざやかであった。その気配に出てきた新太郎を見て「兄さん、お久しぶりでござんす」。「おまえは喜太郎!よく帰ってきたな」と、新太郎、一度は喜びの素振りを見せたが、様子はみるみるうちに一変、「そんな姿で何しに帰ってきた。ここは堅気の大店、おまえのようなヤクザ者の来るところではない。出て行ってくれ」と追い返す。「なさけねえ、ただ逢いに来ただけなのに・・・」と、喜太郎、嘆じたが、新太郎は図に乗って「そうだ、おっかさんも一緒に出て行くがいい。二人で仲良くお暮らしなさい」と強弁。「そうですかい。・・・おっかさん、出て行きましょう」。母、凜として「私は出て行かない。大恩ある御主人様(の位牌)を誰が守るというのか」。そのやりとりを見ていた新太郎、「何をごちょごち言ってるんだ、早く出て行かないか}と言って、母を突き飛ばす。その仕打ちに、堪忍袋の緒が切れたか、喜太郎、咄嗟に長ドスを抜いて新太郎に斬りかかった。「よくも、やりやがったな。殺してやる!」と迫るのを必死で止める母、「喜太郎、何をするんだ。謝りなさい」「いやだ」「謝りなさい」「いやだ」「いいから、謝りなさい」と泣き崩れる母の姿に、喜太郎もまた、泣きながら「ごめんなさい」。(斬りかかられて)固まっていた新太郎、「ああ、びっくりした。殺されるかと思った」と(言いながら)奥に入った。すべてを諦めた喜太郎、母に向かって「では、おっかさん、いつまでもお達者で・・・」と別れを告げているところに、新太郎が飛び出してきた。「たいへんだ、おっかさん!おきぬが鮫一家に連れて行かれた」。驚愕する母、どうすればいい?「喜太郎!」と声をかけるが、「お取り込みのご様子ですが、あっしには何の関わりもないこと、これで失礼いたしやす」と言って応じない。「そんなこと言わずに、おきぬさんを助けておくれ」。「おきぬさんは新太郎さんの女房、新太郎さんが助けるのが筋だ」新太郎「私は堅気、助けられるわけがない。相手はヤクザ、ヤクザにはヤクザのおまえが一番だ。どうか助けておくれ」と懇願するが、「嫌でござんす。それでは御免なすって!」と立ち去ろうとするのを、母、「喜太郎!おまえはこれが目に入らないか」と、亡夫(亡父)の位牌を差し出す。喜太郎、それを見て、雷に打たれたようにひれ伏し、「おとっつあん、あなたは新太郎さんと私を、分け隔て無く育ててくれました。そのあなたから助けてくれといわれりゃあ、嫌とは言えません」と、翻意した。かくて三景は、鮫一家との喧嘩場。(喧嘩支度に)身を固めた喜太郎を迎え撃つ鮫一家、親分・五右衛門、前に出て「やい喜太郎!おまえは何しにキタロウ」という名文句に、ずっこける子分衆の景色は、相変わらず魅力的であった。以後は、鮫一家連中を、見事な包丁(太刀)捌きで、手際よく料理、(改心した)新太郎とおきぬの仲を取り持って、思い入れたっぷりに(再び凶状旅に)出立する喜太郎の姿は天下一品、おのずと私の耳には、あの名曲「木曽節三度笠」の一節が流れてきたのであった。〈木曽の桟 太田の渡津 越えて鵜沼が 発ち憎い 娘ごころが しん底不愍 などと手前えも などと手前えも 惚れたくせ 袷ナー仲乗りさん 袷やりたや ナンジャラホイ 足袋を添えて ヨイヨイヨイ ハアヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ 盆がまた来た 今年の盆の 男涙にゃ 血がまじる にンまり笑った 笑いがすっと 引いてかなしい 引いてかなしい 山の月〉(詞・佐伯孝夫、曲・吉田正)。今日の舞台、堅気姿の次男坊から一転、目の覚めるような股旅姿に変身した、主役・三代目鹿島順一の雄姿が輝いて見えたが、同様に、脇役の面々も随所、随所で光っていた。責任者・甲斐文太、春日舞子の「実力」は、言うに及ばない。加えて、子分鰯の某を演じた赤胴誠、(かつての先輩・名優)蛇々丸の風情を踏襲しながら、必死にそれを超えようとする意気込みが清々しい。さらにまた、新太郎役の花道あきら、身勝手で小心者、「自己中」然とした愚兄の景色を、淡々と、飄々と描出する。どこか頼りない、どこか醒めている、どこか擦れている、その「今風」の気配が、喜太郎・母子の絆を、よりいっそう強固にする。その(「軽・重」の)コントラストが、(透明な)煙幕のように、舞台全体を彩る、といった案配で、そこはまた、花道あきらの「独壇場」でもあったのだ、と私は思う。今日もまた極上の舞台を満喫、大きな元気をいただいて帰路についたのであった。

 

 


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