芝居「命の架け橋」(「鹿島順一劇団」(座長・鹿島順一)〈平成22年8月公演・大阪豊中劇場〉 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

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   6月に三代目虎順が18歳で鹿島順一を襲名(於・浪速クラブ)、7月は四日市ユラックスで順調に滑り出したように見えたが、8月、早くも試練の時がやって来た。劇団屈指の実力者・蛇々丸が「諸般の事情により」退団したからである。そのことが吉とでるか、凶とでるか。とはいえ私は観客、無責任な傍観者に過ぎない。文字通りの責任者・甲斐文太の采配やいかに?、といった面白半分の気分でやって来た。なるほど、観客は20名弱、一見「凋落傾向」のようにも思われがちだが、「真実」はさにあらず、この劇団の「実力」は半端ではないことを心底から確信したのであった。芝居の外題は「大岡政談・命の架け橋」。江戸牢内の火事で一時解放された重罪人(春大吉)が、十手持ちの親分(甲斐文太)の温情(三日日切りの約束)で、盲目の母(春日舞子)と対面、しかし仇敵の親分(花道あきら)の悪計で手傷を負い、約束を果たせそうもない。それを知った盲目の母、息子の脇差しで腹を突く。息子仰天して「オレへの面当てか!?・・・」母「可愛い子どものためならば何で命が惜しかろう。ワシのことが気がかりで立てんのじゃ。そんな弱気でどうする!早く江戸に戻って恩人の情けに報いるのじゃ・・・」といった愁嘆場の景色・風情は、まさに「無形文化財」。最後の力を振り絞って唱える母のお題目(「南無妙法蓮華経」)の念力によってか、法華太鼓の鳴り響く中、めでたく重罪人は江戸帰還、という筋書だが、今回の舞台、ことのほか春大吉の演技に「凄さ」が増してきたように感じる。加えて、座長・鹿島順一は父・甲斐文太と役割を交代、出番の少ない大岡越前守を演じた。その見せ所は、舞台に立つだけで「絵になる」存在感、仇役の親分を「ダマレ、カキナベ!」と一喝する場面だが、今日はその第一歩、それを精一杯、忠実にこなす姿に、私の涙は止まらなかった。「三代目、お見事!」、それでいいのだ。蛇々丸の「穴」は埋められる。これまで仇敵親分の子分で棒を振っていたが、今日は代わって赤胴誠、その所作は寸分違わず「蛇々丸」然、あとは「表情」「眼光の鋭さ」が加われば言うことなし、といった出来栄えであった。やはり「鹿島劇団」は日本一、その実力は「不滅」なのである。


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