芝居「お吉物語」《「劇団菊」(座長・菊千鶴)〈平成21年12月公演・千代田ラドン温泉〉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

全国に150ほどある「大衆演劇」の名舞台を紹介します。

   午後0時30分から、千代田ラドン温泉センターで大衆演劇観劇。「劇団菊」(座長・菊千鶴)。芝居の外題は「お吉物語」。座長・菊千鶴は47歳だとか、51歳で他界した「唐人お吉」の「晩年」を演じるには、恰好の頃合いと言えるだろう。そのことを考慮してか、舞台の重点は、酒浸りで老いさらばえたお吉の、薄汚れた「お菰姿」の描出にあったようだ。とりわけ、終幕前、「俗名鶴松の墓」と刻まれた墓石を抱いて、酒を酌み交わす景色は、リアリズムの極致、迫真の演技で、なるほど「唄は唄」「芝居は芝居」にすぎず 、「真実」とはさだめし、このようなことだったのだろう、と心底から納得してしまった。「お吉物語」で思い出すのは、天津羽衣の名曲(作詞・藤田まさと、作曲・陸奥明)で踊った大川龍昇の舞台、芸者姿の艶やかな姿、表情が忘れられない。とはいえ、それはあくまで「絵空事」、真実は今日の舞台の姿であったに違いない。加えて、私自身には幼少時の思い出がある。今は懐かしいSPレコード、鉄の針ですり切れた摩擦音のむこうから聞こえてくる、芸者・小花とやらの美声は、珠玉の俗曲「さのさ節」。その文句に「いじらしや、伊豆の下田の唐人お吉。今日も揺られて籠の中。許してちょうだいねえ、鶴松さんと、合わす両手に散る椿。」だって・・・。周囲の大人たちが酒席で興じる音曲を、子ども心に、意味も分からず聞いていた昔が、昨日のことのように思い出されて、感極まる。この劇団のこの芝居、よくよく思えば、まさにこの終幕の一場面のためにあった、といえるだろう。座員の役者衆、人数も沢山、容貌も多彩であったのに、それまでの登場人物が誰々であったか、ほとんど印象に残っていないという按配であったから・・・。   二部の舞踊ショーで、座長の他、副座長・菊小菊、流星、後見・浅井浩次、他、男優三人、女優四人、子役一人といった「大所帯」(役者だけで総勢十二名?)であることを確認した。いずれも「芸達者」「魅力的」な逸材が揃っていると思われるが、まだ「チーム」として結実化していない、ように感じられた。総力を結集して、座員一人一人の「個性」を磨き上げることに徹すれば、関東随一の舞台を作り上げることができるのではないか、文字通り「有望株」な劇団だと確信しつつ、岩盤浴に向かった次第である。

 

 

 


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