芝居「お吉物語」《「劇団朱光」(座長・水葉朱光)〈平成23年12月公演・小岩湯宴ランド〉》 | 大衆演劇の名舞台

大衆演劇の名舞台

全国に150ほどある「大衆演劇」の名舞台を紹介します。

   芝居の外題は「お吉物語」。配役は、明烏お吉に座長・水葉朱光、船大工鶴松に水谷研太郎、大工棟梁に梅沢洋二朗、総領事ハリスと鶴松の母二役が舞坂錦、下田奉行に花形・水廣勇太、居酒屋亭主に潮美栄次・・・、といった面々で、まさに「適材適所」、その結果、たいそう見応えのある「名舞台」に仕上がっていた、と私は思う。「お吉物語」は、あくまで悲劇だが、そのことを踏まえて、お吉と鶴松が再会、結ばれるまでのハッピーエンドにした「粋な計らい」が心憎い。私はこれまでに「劇団菊」(座長。菊千鶴)、「満劇団」(座長・大日向皐扇)の舞台を見聞しているが、(幕切れ後の)「後味の良さ」では群を抜いていた。明烏お吉、水葉朱光の景色は、まだ菊千鶴、大日向皐扇に及ばないとはいえ、表情・所作・口跡が醸し出す「やるせない」風情(心象表現)は、他を凌駕している。とりわけ、「一言一言」をとぎれとぎれい、噛みしめるように言う、彼女独特の口跡(口調)は、お吉の心情を、いっそう鮮やかに(艶やかに)描出する。文字通り「当たり役」の至芸である、と私は見た。加えて、脇役陣も充実している。アメリカ総領事ハリスと鶴松の母(二役)を演じた舞坂錦の「達者さ・器用さ」(実力)も半端ではない。鶴松曰く、「俺はハリスが憎くてたまらねえ。ところで、おっかあ、おめえ近頃、ハリスに似てこねえか?」、母親、一瞬、舞坂錦の素顔を垣間見せる。また、唐人とさげすまれ傷ついたお吉を温かく迎えながら、「あのね、ハリスさん死んじゃったの」と言われたとき、思わず「ずっこける」姿は絶品、ことの他「絵になる」場面であった。仇役(下田奉行)に回った花形・水廣勇太、「お上のなされよう」に翻弄され、心揺れ動く鶴松役の水谷研太郎、お吉と鶴松を優しく取り持つ棟梁の梅沢洋二朗らも、おのがじし「個性」十二分に発揮した「名舞台」であった。水葉朱光という女優、初舞台は11歳(不二浪劇団)、若葉劇団での修行を経て17歳で座長になった由、体型は「天童よしみ」然、容貌は「浅香光代」で、決して「美形」とは言い難い(御無礼をお許し下さい)が、(魅力的な)「日本の女」を演じさせたら、天下一品、右に出るものはいないのではあるまいか。「健気」「おきゃん」「鉄火」「母性」等々、多種多様な「女性像」を演出し続けてほしいと願いつつ、今日もまた「美味しい料理を賞味した」気分で帰路に就くことができた。感謝。

 

 


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