スペカン到着初日


全員下船 上陸
 

僕は一人で船上に居残り 留守番です

 


マニラでの停泊中はよく 一人で船の上で本読んだりして何日も過ごしたものです

初めての島を早く探検したい気持ちはありますが
 


マジャパヒト号ともこの後 しばらくお別れ 

最後くらい マジャパヒト号との別れを惜しみつつ 一人でゆっくり船の上で一晩過ごすのもいいかな~ 


なんてセンチメンタルなことを思っていると… 









潮が引いて浅くなった岸辺から 


なぜか大勢の島民がバシャバシャとこっちに向ってくるではありませんか

その数 およそ20人


なかには覆面のようなかぶりものを着け 小舟で横付けしてくる怪しげな輩までいます


海洋冒険家見習いの航海日誌


船に辿り着いた大勢の男達がアウトリガーをつたって船に乗り込んできました




白昼堂々と強盗? それとも海賊!?



 



彼らは乗り込んできたのに 僕のことを遠巻きにじろじろと見ています




「 あっ… あの 何ですか? 何かご用ですか…? 」 




男達一斉に 

「アッドゥーーー!!!」 

「あんたインドネシア語が喋れるんかい!? アッドゥー!」





「ええ… そんなに上手じゃないですけど…」


男達 

「アッドゥ-! わしらこの島に世界を回った船が来たっちゅうんで 見に来たんじゃー この船が世界中を航海したんじゃろ そうじゃろ? あんたは何人さんじゃ? 」

 

「アッドゥ! わし知ってるぞ! もしかしてあんたあの ジャッキーチェンじゃなかろうか? そうじゃろ!そうじゃろ!」



「そうじゃ! ジャッキーチェンじゃ!」




 

「………」




どうやら ただアグレッシブな野次馬さんのようですね。。。


矢継ぎ早の質問が飛んできます


「この船でどこの国にいったんじゃ!?」

「なんでスペカンに来たんじゃ!?」 

「乗組員は何人じゃ!?」 

「外国にはどんな魚がおるんじゃ!?」

「カンフーを教えてくれ!」




さらには船の中に入り込んで 備品やら荷物やらをいじり出します




「なんじゃぁ! この食べ物は これをわしにくれ!」 

「煙草があるぞー! これもらっていいか!」 

「わしにはこの水中メガメを くれ! 」  



「はぁ! 何言ってんだあんた達は ダメ!ダメ! 何もあげないよ
 それに船室に勝手に入らないで!そこエンジンルームに入らないで! 
 ちょっとそこ GPSいじくらないで!」 


もう大変です 野次馬が今度は”おねだり強盗”に早変わりです



さらに今度は 岸から大勢の子供が泳いできました! 


子供達はデッキの上を走り回り マストによじ登り 
大人達はあれこれ勝手にいじくり返し てんやわんやの大騒ぎ


さすがはブギスと並ぶアジアン海賊の末裔 オランバジョー 
 


船の上に僕を残した 山本船長の判断は正しかったのですが…

僕一人で本当にいいんですか?



僕のイライラもピークに達してきました…
 

基本的に自分は余所者なのだという意識から 外国では常に愛想良く振る舞う僕ですが いい加減に爆発寸前です 


そこにさらに 高校生くらいの男の子が数人乗り込んできました




「こらぁーーー!!! お前ら勝手に船に上がってくるんじゃない! 全員今すぐ船から降りろ! 今すぐ! 全員降りろ----!!! 何か盗んだやつは海軍に逮捕させるぞぉ!(海軍は逮捕はできません)」


近くいた子供を担いで 海に放り投げました



「わぁ! ジャッキーチェンが怒ったぁ! アッドゥー 」


怒りに任せて 逃げまとう子供を追い掛けて次々と海にたたき込みます








それでも船に上がってこようとする新参の高校生男子数人


「こらぁ! お前ら人の船を何だと思ってやがるんだ! 全員海にたたき込むぞこのボケどもがぁ!帰って糞して寝ろ!」
 

すでに日本語になって怒鳴りつけ 子供を一人投げつけようとすると


高校生男子

「待って下さい! 僕らはパッハジから言われてこの船の見張りを手伝いにきた イスラム神学校の生徒です」

「この島に新しい船がくると 島の人が乗り込んで荷物を盗んだすることがあるのでこれから数日 船の片付けが終わるまで ヒロさんと一緒に船の見張りをするように言われてきたんです。」


 


「あれ! そうなの!? それはとっても助かるよー 早速この野次馬達をどうにかしてくれ!」




天の助け まさにアッラーのお導きですね





彼らがこの船はインドネシア政府の船で 勝手に立ち入ると後 パハジから報告されて 問題になりますよ といったようなことを言うと 恐るべき”おねだり強盗”達はしぶしぶ退散していきました



ようやく船の上に静かな時間が訪れました




 


「いやぁー 助かったよありがとう しかしすごいねこの島の人達は でもここにしばらく船おいといて大丈夫なのかな? 今日の騒ぎを見ると心配で帰れないよ 戻って来たらエンジン無くなってたりするんじゃないの?」


神学校生徒諸君

「それは大丈夫です この浜から船を移動させて 僕らの学校の前の浜に留めましょう 船の管理はパハジが責任をもってやりますから。」 


「そうか あの人が管理してくれるなら安心だね」 



この神学校の生徒達は インドネシア各地から主にバジョー族やブギスの子供達を集め この島で共同生活をしながら 一般学習からイスラム教の特殊学習まで勉強しているとのこと 

日本で例えるならお寺で修行しながら勉強する学生のようなものですかね


海洋冒険家見習いの航海日誌


僕らはその晩 船に泊まり込んでくれた学生3人と夕飯を作り

今までの航海の話を聞かれるまま語り 平和な一晩を過ごしました。