トヨタ生産方式は、トヨタ自動車の卓越した業績の源泉であると喧伝されてきました。
このトヨタ生産方式の独特な手法、たとえばカンバン方式やQCサークルといったツールは、他社でも広く導入されています。
事実、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーといった世界的な自動車メーカーは、トヨタ生産方式を真似た生産システムを独自に開発しようと、本格的に取り組んできました。
航空機や重工業、消費財や生産財など、さまざまな産業でもトヨタ生産方式の導入が試みられてきました。
トヨタは驚くほどオープンにそのノウハウを披露してきました。
しかし不思議なことに、上手に再現できたメーカーは皆無です。
数千という企業から数十万人ものマネジャーがトヨタの工場(もちろんアメリカも)を訪問しましたが、トヨタに匹敵するような成果を上げることはできませんでした。
これにいら立った訪問者たちは、トヨタの成功の秘密はその文化的なルーツにあるに違いないと考えました。
しかし、これはまったく的外れです。同じ日本企業ではあっても、日産自動車や本田技研工業は、トヨタの水準に達していません。
トヨタ生産方式の分析は、なぜこうも難しいのでしょうか。
それは、訪問者たちが工場で見たトヨタ生産方式の本質を、そこで用いられているツールや手法と取り違えてしまうからです。
したがって、ほとんどの訪問者たちが、トヨタ生産方式のパラドックス、つまり、トヨタの工場における作業や連携体制、生産工程は厳格に規定されていますが、その一方で、操業方法は非常に柔軟性と適応性に富んでいることを理解できていません。
しかもトヨタは、生産活動と生産プロセスの課題解決に日々取り組んでおり、それゆえ継続的改善とイノベーションが実現可能なのです。その高い業績は当然の結果といえます。
トヨタを理解しようとするならば、トヨタ生産方式の見えざる手によって「科学者集団」と呼ぶべきものが自然に形成されることを知っておく必要があります。
トヨタでは、何らかの作業規定を決める場合、必ず仮説を立てたうえで検討し、それを後で検証できるようになっています。
換言すれば、科学的アプローチが採用されているのです。
また、何らかの改善を実行する場合には、問題解決プロセスを一つずつ踏んで進めています。
まず現状について詳細に調査・検討したうえで、改善プランを立案することが求められます。
これは取りも直さず、提案されている改善プランの仮説検証にほかなりません。
このような科学的な厳格さが少しでも緩めば、いくら改善活動を実行したところで、それらは無秩序な試行錯誤の山にすぎません。
言わば、目隠しのままやみくもに歩き回るようなものです。
トヨタでは、厳格な作業規定と組織構造にもかかわらず、命令とコントロールによって作業者を管理したりはしません。
なぜなら、この科学的アプローチが浸透しているからです。
実際、現場の作業者たちが持ち場の仕事に打ち込んでいる様子や、生産工程を設計するのを手伝っている姿を見ていると、作業者とマネジャーは一種の“実験”に参加しているようで、これはまさしくトヨタ生産方式の力なのだという気になります。
このような状況は「学習する組織」の第一歩でもあります。これこそトヨタと他の企業との違いでしょう。
トヨタ生産方式とそれを支えている科学的アプローチは、外からトヨタに移植されたのではなく、また意識的に選択されたものでもありませんでした。
このような仕組みは過去50年にわたる努力によって自然と育まれてきた賜物といえます。
それゆえ一度として文書化されたことはなく、トヨタの従業員ですら理路整然と説明できる人はあまりいません。
トヨタの従業員以外の人に、トヨタ生産方式がきわめて理解しにくいのはこのためです。
参考:
https://learnfromaccidents.osakazine.net/e533836.html
http://www.best-business.jp/
藁科充
