「は、はいどろか…きゃのんっ!」
フィが放つ「ハイドロカ…キャノン」は威力絶大だ。
本体と技のタイプ一致効果によるものだと「WAZAマッスィーン」とやらを自負する爺が言っていたような、言っていなかったような。
もっとも、爺が以前使った「ハイドロカ…キャノン」とフィの「はいどろか…きゃのん」には何の因果関係もなく、フィが元々使う技に爺が乗っかっただけだったりする。
「どうして?どうして、ませおをぶつの?その人はお友達なんでしょ?やめさせてよ!」
フィは水のソファで俺を受け止めた後、両手を目一杯広げてベルセルクの前に立ち塞がった。
あんなにも小さな身体で俺を、みんなを、護ろうとしている。
小刻みに震えているのは必死さの表れか、それとも恐怖か。
俺は何をしている?、とゴーリオは自分を疑った。
肩に乗りはしゃいでいたその者の笑顔が、死に満たされている。
父母を想い涙に震えていたあの日、抱きしめたその者の身体の、なんと小さかったことか。
旅の父と慕われ、その者に戦う術を教えたのは何のためか。
勝算など微塵もないバケモノに立ち向かう、誰よりも小さなその者。
その背中は、ゴーリオが再び闘志を燃やすのに十分な意味を持っていた。
その者の名は、フィーリャ。
水の民の少年。
"フィーリャ…。あなたはなぜ、その人を救いたいの?あなたはどんな気持ちでそこに立っているの?教えて。"
女神の声は一応の優しさを纏っていたが、彼女の瞳は言葉と裏腹に、深く、闇夜の底のように赤い。
ベルセルクが漆黒の爪を小さなフィーリャに向けた。
返答次第では、などと楽観的な考えが通じる相手ではない。
「分からないよ!分からないけど、苦しんでいるお友達を放っておけないもの!ませおはお友達だもん!」
言葉の後半が涙に滲んでいた。
"そう…。異種族との共生を促す思考プログラムがここまで深化しているとはね。…その感情は異星種族に付け入る隙を与えてしまう危険なものよ。今回も失敗したと記録しておくわ。"
"…もう十分よ。余興はお終いにしましょう!"
赤眼の女神がその滑らかな両手を前に掲げると、無機質な空間が暗く輝いた。
黒光りする凶悪な爪をギラつかせ、ベルセルクが黒い残像へと変わる。
女神の言葉通り、終焉の時は近い。
「やめろぉぉおっ!」
死に体から捻り出した俺の叫びは、きっと届かない。
「ゴーリオ、迷うな!フィーリャ、合わせなさい!」
風が吹いた。
「迷いなどあるかっ!」
大地が揺れた。
「ゴーリオ!ミャタポ!うん!ませおとじゅいを助ける!」
水が弾けた。
次の瞬間、黒い残像が巻き上がり、俺の視界を虹色の光が独占した。