"マルセロさん、あなたはもうお気づきでしょう。ゴーリオ達は私が創り出した人類です。"
"旧人類と地球の生物元素、そしてVの遺伝子を掛け合わせて創った新人類。ゴーリオ達はジェネレーション17。彼らの「アダムとイブ」も、これまでの世代と同様に、私の中、つまりFRIGGで培養しました。"
"Vに寄生されていない彼らに吸血衝動はなく、伝達素子である、ヴァンパイア語も受け継がれません。"
"生命創造。これがFRIGGの本来の使い方です。FRIGGはヴァンパイアの個体数を維持するために作られた装置。"
"いまここに在るFRIGGだけは、地球再生のため、私をコアにカスタマイズされています。"
マルセロは静かにハンドガンを下ろした。
AIの、サクアモイの告白は、十分「全て」に価する。
ゴーリオとミャタポが、音を立てて膝から崩れ落ちた。
意味も分からないまま囚われた女神。
そして偉大な母、サクアモイは実体すらなく、未だに謎が多い。
そのサクアモイは、自分達を自然の営みから逸脱した存在だと言い放った。
『父と母は何者か。
その更に父と母は何者か。
自分達は何者か。』
彼らは今まさに、その問題の渦中にいるのだろう。血の気の引いた顔に混乱を超えた混沌が浮かぶ。
"遥か昔、この大地は一度壊れました。壊れる前の大地にはマルセロさんと同じ姿をした人々がたくさん暮らしていた。だけど、その人々は一部を除いて大地と共に死んでしまった。"
"壊れた大地を再生するために、私はここにいます。"
"大地の再生はもうすぐ終わりを迎えるでしょう。再生が終われば、昔この大地で暮らしていた人々が戻ってくる。…もうすぐ、私の役目は終わる。全てが終わった後の私に、自由はありません。"
"FRIGGと完全に一体化してしまった私は、FRIGGなしで生きられない。"
"私に用意された未来は「廃棄処分」。"
サクアモイの最後の言葉は、ここにいる誰のものでもない声だった。
"私は……、私は、どうしても!…どうしても…、もう一度、あなたに会いたかった。…あなたと手を取って暮らしたかった!マルセロさん…、あなたは信じてくれなかったけど、私の語った事は事実です。"
「だから?だから、都合よく現れた准尉を攫って脳みそを取っ替えようってのか!?」
言葉こそ荒かったがマルセロは瞳の色を失っていない。
"マルセロさん…、あなたは勘違いをしている…。あなた達の目の前にいるのは、私。"
"あなた達の言うサクラ・タナカ准尉ではないわ。"
"私は…、サクラ・モリノ少佐。"
女神が瞳を開いた。
膝を抱えていた腕を解くと同時に白金の鎧が女神を包む。
見慣れた女神の姿だ。
ただ、一点を除いて。
女神の瞳は紅かった。