洞窟は想像していたよりも浅くて、狭かった。
ふぃの駆け足に合わせた速度、私だと軽いジョギングくらいで走ったら、あっと言う間に目的地っぽい広めの空間に着いてしまうくらいの広さ。時間にしたら5分掛かってないと思う。
異世界物やゲームによく出てくるダンジョン探索を期待してたけど、現実はそんなに甘くない。
普通に考えたら「あんな」ダンジョンあるわけがない。トラップやら宝箱がある時点で誰かが管理しているわけで、巨大モンスターが住めるほど広いダンジョンだったら管理する側は超大変だ。
現実は狭いし、天井低いし、臭いし…、そして、アッサリですょ、アッサリ。
目的地には変なモノが建っていた。
建ってると言う表現が正しいのかは分からないが、この変な構造物は明らかに人の手で管理されている。
洞窟の壁を切り出して作ったと思われる高さ2メートルくらいの柱が4本立ててあって、その各柱の天辺を新しめのロープが囲う。そのロープから地面まで垂れる、どこかで見た水着と同じ素材感のラメ布は、仕切りのつもりだろうか。
向かって正面の布だけ真ん中が分かれるカーテン仕様になっているところを見ると、正面が出入口なんだろう。だけど、他の3辺の布も固定されているわけではなさそうだ。
なんというか、4辺どこからでも入れてしまう、スゲェ雑な作り。つーか、ここの人達はラメラメ好き!
「あなは!さゃあしまも、ゔぇんご、あるびまいとっくにやょ。ゔぇんご、にるぁにすぇち。あなは!あなは!?」
ふぃはいつだって全力投球だ。決して広くない空間にふぃの声が反響してうるさい。
「ががぉたらみ!わゃみつたひ、ふぃ!」
数秒の間をおいて、仕切りの向こうから怒ってる感じの声が返ってきた。
こんな場所に住人がいた!って顔をしたつもりだけど、普通に無表情なんだろうなぁ。
正面の布を勢いよく割って登場したのは皺くちゃのヒゲ爺さん…、だったんだけど、私とマルセロさんを見るなり固まってしまった。
ふぃと似ているから、お爺さんも水棲人類だと思う。
お爺さんは、踏んでしまいそうほど長い、もさもさひょろひょろの顎ヒゲを生やしていて、水着も着ていない。ついでに頭はツルツル。
水着の代わりに、採寸とかしてなさそうなラメじゃない白いボロ布を着ている、というか、被っている。
ボロ布は、大きいゴミ袋に頭と両手を出す穴を適当に開けた奴の長い版で、お爺さんだと足まで隠れる。
私だとたぶん膝上丈くらいだから、いつかの精密検査で着せられた変な布とだいたい同じ長さだ。
「あなは!なたやさぇ、ゔぇんご、かたななむしりっつたんだる!」
固まってるお爺さんに、元気いっぱいのふぃが親しげに駆け寄る。
お爺さんの名前は「あなは」さん、なのかな?発音があってれば…。
お爺さんはふぃの言葉に何度も深く頷いた後、私達に向かって、シュババッと、土下座スタイルを決めた。