住民達は、みな隠れてしまった。

 彼らが隠れたのは直径1メートルほどの穴の中。
 穴は外側から木のフタで塞がれている。
 問題は穴の場所だ。穴は何故か水底にある。

 さて、どうしたものか…。



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 私は5日も寝ていたのだという。
 集落に向かう道中、爺とマルセロさんが周辺環境の事など、色々と教えてくれた。


その1
 最初に覚醒したのはマルセロさんで、場所は岩山群のもっと奥の方。爺もタマも電源が落ちていて、全員が白い羽根に埋もれて寝ていた。捕食者の気配を察知したマルセロさんの独断で、比較的明るい例の水辺近くの岩山に移動した。

その2
 爺のスキャンによると、私は5日間の「昏睡状態」だった訳ではなく、普通に「睡眠」していただけ。私に記憶はないが、水を飲んだり、排泄はしていたようだ。爺とのリンクは電源切れにより解除されていた。

その3
 一般端末は圏外。衛星もマーカーも検索できない。近くの端末と相互通信だけはできる。

その4
 AI端末も圏外。データベースリンクできないため、内部メモリーとマルセロさんの端末に保存されている情報だけで思考している。その結果、爺はセクシー女優とLIONのプライベートについて異常なほど詳しくなった。

その5
 天体測位の結果、私達は南米基地周辺にいる。しかし基地はなく、なぜか太陽が2つある。代わりに月はない。他にも一部確認できない天体がある。

その6
 水は飲める。簡易分析では日本の水道水レベル。マルセロさんはこの地域を巨大な湖だと考えている。果実は食べられるが、魚は鱗と肉が硬く、焼いても食べられない。

その7
 岩山群は野生動物達が寝ぐらにしている。夜になると岩山から肉食動物が出てくる。私達が寝ぐらにしていた水辺周辺は比較的弱いのが住んでいるエリアで、奥に行くほど強そうなのがいる。最初の夜に2足歩行する3m超のトカゲに襲われた。

その8
 人類はいる。岩山から離れた水辺でよく見かける。人類は岩山に住んでいない。遭遇しただけでは逃げないが、声をかけると逃げられる。

その9
 この地域の生物格付け。植物 < 小動物 < 魚=果実 < 中型動物=大型魚 < 大型動物 < 人類=2足歩行トカゲ。人類と2足歩行トカゲが食物連鎖の頂点に君臨している。



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 話は冒頭に…。

 声をかけたら逃げられると聞いてたのに、まだ空気を読めないAIが「ウッカリ」声をかけやがったため、今に至る。
 住民観察する予定がいきなり白紙になってしまった私達は、この綺麗な水辺でマッタリする事にした。

 私と爺は、水深5センチくらいの浅瀬でパチャパチャ、アハハウフフ(声は出ない)と水かけ遊び中。爺はぬいぐるみのくせに600気圧防水らしい。

 クソ暑いのに、長袖のまま木陰でカッコつけるマルセロさんの視線が若干気持ち悪いので、ブラアーマーを脱ぐのはやめた!


 耳を澄ますと、フタの向こうから子供達の声と子供達を注意する大人の声が聞こえる。
 彼らの言語は今まで耳にした事のない響きだった。
 話している内容までは分からないが、推測するならば、こんな感じではないだろうか。

子供「僕もモフモフと遊びたい!」
母親「あんな変な人達と遊んじゃいけません!」

 子供達は好奇心の塊だ。

 ただでさえも仮装行列みたいな私達に興味津々のはず。

 さらに「動くぬいぐるみ」なんて見ちゃったら、黙っていられる訳がない。

 

 たぶん、もう少ししたら1人くらいは顔を出してくると思う。