薄暗い空間に横から射し込む陽の光を受けて、ピアスがチリンと鳴った。
『ここはどこ?』
そんなセリフ言う訳がない、と思っていたけど、実際に言いかけた自分がいる。
声が出なかったので、すぐに自分が女神姿なのだと知った。
目を開けると、私は薄暗い空間に1人で寝ていた。
視線の先から差し込む強い光のお陰で寒々しい感じはしない。
嗅ぎ慣れた匂いが、その光の正体は太陽だと私に教えてくれた。
私はマルセロさんと一緒にマインの爆発に巻き込まれて、Vマイクロムで繭を作った。
間に合った記憶はないけど、私がこうして寝ているのだから、間に合ったのだろう。
ベッドから上体を起こして、頭をポリポリと掻く。それから、立体視交差法中のような目つきでシワの寄ったシーツを意味もなく見つめた。
私は昔から寝覚めが良くない。
「おはようございます。」
射し込む光を遮って、イントネーションに特徴のあるヴァンパイア語が聞こえた。
このイントネーションはガテン兄さんのマルセロさんだ。逆光に浮かぶ彼のシルエットは、服を器代わりにして持ちきれない程の何かを抱えているように見える。
「少し酸っぱいですが、おいしいですよ。食べてください。」
マルセロさんが抱えていたのは、たくさんの果実だった。その中からオレンジ色の果実を1つ、私に差し出す。
差し出されたのは、林檎や洋梨のようでありながら柑橘類の皮に覆われた不思議な果実だった。
逆光で表情は見えないけど、彼はたぶん笑っている。
不意に、キューズの「タマ」に微笑む彼の顔がフラッシュバックする。
『間に合って本当によかった…。』
無表情な私の瞳から液体が「一粒だけ」溢れた。
本音を言えば、敵も、味方も、もう誰も死んでほしくない。
間接的にしろ、直接的にしろ、私が死に追いやってしまった人達とその家族の事を思うと、何が正しい選択なのか分からなくなる。
戦争に犠牲はつきものだ、そんな綺麗事を言う人に限って最後まで生き残っている。
犠牲が必要なら、火種になったお偉いさん同士が真っ先にその身を捧げれば良い。
「え?あ、あれ?…果実はお嫌いでしたか!?」
たった一粒にマルセロさんが気付いたのかと思ったけど違った。
彼が焦っているのは、私がなかなか受け取らない事に対してだ。
『…ありがとう』
今なら言葉になる気がしたけどやっぱり無理だった。
私は差し出された果実を受け取った後、ありがとうの代わりに彼の指にキスをした。
マルセロさんは、なぜか変な声を上げてから、慌てた様子で手を引っ込めた。
『さすがに喋れないのは不便だな…。2人だけみたいだから変身を解こう。』
私は通常の金髪女子に戻るイメージをした。
しかし、何も起こらなかった!