霧島中尉が、准尉は下がれ、と厳しい口調で言った。
騎士団も一応軍隊だ。
ちょっとした事でも上官の命令に従わないと、けっこう「酷い罰」を受ける。
先日、基地内の徒歩移動が面倒で、飛んで行ったら中尉に見つかってしまい、罰として「蜂蜜ムダ毛処理の刑」をくらった。
確かにお肌はツルスベになったけど、あれは二度と受けたくない。
「少佐…不躾ながら、お願いがあります。」
中尉が目ヂカラを一段とアップさせて言った。
「にゃっ…、なんだ?言ってみろ。」
応えた少佐が、さっきよりも一段上の吃り方する。
確信した!
少佐はファンだ!たぶん、中尉の熱烈なファンだ!
撃たれちゃう系だ!
「そこにいる田中は、二階堂姉妹の救出とEAXゲートの障害排除の命を受けて、そちらに向かいました。」
中尉が整った顔で平然と嘘をついた。
今回は私が勝手に自己承認して飛んだ。
誰からも命令は出てない上に、思いっきり軍規を破っている。
バレたら蜂蜜で頭髪を処理されるレベルの問題行動だ。
いくらスーパーアイドルと言えど、今回の件を揉み消すのは無理ではないか。
《姫様!東方大将様、から、命令、が、下り、ました、ぞ。作戦、は、"二階堂姉妹救出後、ゲートを起動せよ!"、です、じゃ。》
爺が私にだけ聞こえる「コソコソ話モード」で伝えてきた。
『マジっすか!?東方大将って、案外美人に弱いキャラなのか?』
私が入隊前にスカイツリーで歌った時も、何気に中尉だけお咎めナシだったと言う噂を聞いた。
ちなみに、ペラ男は「クワガタに眉毛を挟まれたまま1日過ごす刑」に処されたらしい。
「今回は理由あって准尉を先発として向かわせましたが、実戦経験が浅いため単独だと時間が掛かると考えています。自分と少尉が到着するまで、准尉の作戦遂行にご同行願えないでしょうか?」
中尉は前屈みに身を乗り出して言った。
胸元の危うさが一気に増す。ギョッとした少尉が後ろから、ブラジャーにしか見えない衣装の肩紐を引いて、中尉を元の起立に戻した。
「…わかった。と、言いたいところだが、命令を確認してからにする。先ほど見た准尉の生体情報に作戦フラグが表示されていなかった気がするのでな。」
鼻の下を伸ばしながら胸元を凝視していても、さすがは佐官だ。見るべきところはちゃんと見ている。
だけど、さっき届きたての命令があるのでギリギリセーフだ♪
少佐は端末を私に向け、なぜかニヤリと笑った後、ガテン系のお兄さんと2人で、私の生体情報を確認し始める。
少佐は左の揉み上げを摩りながら、小声で何かを呟いている。
聞こうと思えば聞き取れたけど、どうでも良さそうなので聞くのを止めた。
そんな事より、端末を向けただけで生体情報が見れてしまう世界ってどうなんでしょうね?
「…ふむ。確かに作戦中のようだ。わかった、協力しよう。作戦参加のシグナルは俺から参加者全員分まとめて送っておく。………なあ、さっき見たときハイド設定だったか?」
最後の最後に、首を傾げた少佐から意見を求められたお兄さんは、数秒間考える仕草を見せた後、肩を窄めて、分からない、と言った風のジェスチャーを返した。
「ありがとうございます!自分達は新型ポーターで向かいますが、到着まで約6時間かかる見込みです。それと、准尉は喋れませんので、ご質問やご指示はイエス・ノーで答えられる物か、端末経由にしてください。それでは、失礼いたします。」
霧島中尉は、いつもよりちょっと浅めに敬礼をして、通信を終了した。
さすがに胸元が気になったのね!?
「ところでお姫様…お前は人間か?」
少佐が改まって不思議な質問をしてきた。
当たり前のように頷いた私に、少佐は、そうか、と言っただけでそれ以上は聞いてこなかった。
基地が違うと色々面倒そうだから、中尉の最後の言いつけ通り「喋れない」女神姿を利用していこうと思う。