《姫様、まだ、放送中、ですじゃ。ご覧に、なりますかな?》

「うん、観る。3Dでお願い。」

 琴美と別れたあと、やけに気分がイラついたので部屋に戻ってきた。

 私は何にイラついてるのだろうか。
 真実を話せなかった自分に?
 それとも、変わってない琴美に?

 どちらにしろ良い感情とは思えない。



"みんなー、準備はOK?"

 最初に映し出されたのはViPのリーダーであり、絶対的エースのRICAこと、霧島中尉だった。
 中尉の呼びかけに、会場は獣の雄叫びのような歓声に包まれた。

『めっちゃアイドルしてる…!てゆーか、露出高っ!ハラ見せてるし、腕と太もも全開じゃん!下着じゃん!』


"LIONもOK♪最後の曲、いくよー!"

 カメラがパンして、今度はLIONこと、神河少尉が映し出された。
 
 人気だけならRICA、CHICOに次ぐ3番手だが、女性ファンの数で言えばLIONが圧倒している。ライブ後は決まって彼女メイクにフォーカスした特番が組まれるなど、世の女性ヴァンパイアのビューティーアイコンとなっている。

『え!?ナニコレ!本当に少尉!?めっちゃアイドルしてる!脚長っ!』

 中尉と同じ系統ながら露出を抑えたデザインの衣装に身を包んだ少尉は、想像を絶するほど綺麗だった。
 元々ハイスペックなんだから当然と言われればそれまでだけど、少尉の輝き方は尋常じゃない。

 なんて言うんだっけ、こういうの…水を得た魚…?
 ステージに立っている彼女が本当の神河さんなんじゃないか、と私は思う。


 2人がステージの中央で背中合わせに立つと、会場のボルテージは最高潮に達し、ステージ上だけでなく、会場全体が輝きに包まれた。


『あれ?この輝き…観客がオンセットしてる?』


 イントロが始まった。
 数名の観客がステージに上がろうと飛び出して、すぐさま警備員に撃ち落とされた。


『い、今、ガチで撃たれてなかった!?』

 ショックガンとかで死なないように撃ってるんだろうけど…。


 2人のステージは圧巻でした。2人ともメッチャ歌ウマです。
 異常に盛り上がった理由も分かりました。

 この美女2人が、歌いながら艶かしく絡むんです。
 しかも、おいで、と言わんばかりに観客を挑発する。
 もう我慢の限界!って観客が、ステージに飛び込む、そして、撃たれる。
 イントロで飛び込んだ数人は、俗に言う、早LOWってやつですか?
 この2人の絡みと比べたら、さっきの私と琴美の絡みなんて、ゴミ袋の中のゴミ。


 曲が終わると、大量の屍(観客)の中心に少し肌けた2人が立っている…。
 中継ドローンが上昇して徐々に全景を映していく演出は映画っぽい。
 3Dホログラムで鑑賞してると圧巻です。

 中尉はいつも通り非の打ち所なく綺麗だったけど、少尉も本当に綺麗でした。
 少尉が帰ってきたら、土下座してでも脚を触らせて貰おうと思います!



ビィー!ビィー!ビィー!
エマージェンシーコール!

 ライブの余韻に浸っていると、マイ端末のまみぃちゃんが唸りを上げた。
 ライブ中継を強制ディスコネクトして割り込んできたのは、マリナさんからのエマージェンシーコールだった。


 自動応答した端末から聞こえて来たのは、誰かの荒い息遣いと、間近に響く爆発音だった。


「おね……!早……て!レイ…っ…! ドドン! ガガガッ…ザーッ…」

 通話はそこで途切れた。