"政府はホログラム映像だと言い張っていますが、ここを見てください。ここです。この部分。周りと色が違いますね?これは女神の影じゃないかと私は考えてます。つまりですね、この影こそが、実体ある女神が光を遮ってる証拠なんですよ。"
『この物理学者って人、昨日も出てたなぁ。』
私はストレッチしながら代わり映えのしない午後のワイドショーを見ている。
内閣官房長官はスカイツリーに現れた女神について、異例の緊急記者会見を行った。官房長官は会見でこう語った。
「お騒がせしている女神は、政府主導で進めている立体放送、すなわちホログラム放送の試験映像、および、新規格スピーカーフォンの試験放送、でございます。女神は実在しておりません。マスコミ各社への事前連絡なく試験を行った件につきましては、総務省の担当者より後ほど説明がございます。繰り返しますが、女神は実在しておりません。」
事情を知る私が贔屓目に見ても、官房長官の記者会見は雑だったと思う。だけどまだマシ。総務省の発表はその数段上を行く雑さだった。
終始ぐだぐだ。まず主任技術者と名乗った登壇者がホログラム装置をまともに操作できないぐだぐだっぷりから始まり、小一時間待たされた挙句に表示された女神は「アニメ顔」だった。しかも数年前の某幼女向けアニメキャラを色替えしただけ、というぐだぐだなオマケつき。
ホログラム装置は騎士団からの貸出品っぽいから7万歩譲って操作がぐだぐだなのは分かる。私は下敷きすら操作できなかったし。せめて女神くらいちゃんと作ろうよ!プリQアはないわぁー。
最後は「急遽、担当技術者の母親が倒れまして…」と、超ぐだぐだな言い訳で総務省の発表を終えた。
結果、女神フィーバーが止むことはなかった。連日連夜、特集番組が組まれ、女神がホログラムではない証拠を様々な分野の専門家達が追求してる。
これに対し、日本政府は沈黙を続けている。
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大将の圧力で溶けそうになったあの日からずっと、私は騎士団本部に滞在している。
詳しい事情を教えられないまま、今日で1週間になる。あてがわれた部屋から一度も出ていない。
騎士団本部と言っても私がいるのは地下区画だ。しかもかなり深い地点らしく携帯電波は届かないし、出入口は自動ドアっぽいけど、ドア周辺を完全武装した複数の騎士団員が24時間体制で警備しているので近寄ることすら憚れる。
これは軟禁ってやつじゃないでしょうか?
ちなみに、騎士団本部の地下は地上に見えている部分の何倍も広い。官房長官と会った部屋からこの軟禁部屋まで来るのに、コミューターと呼ばれる自動走行する透明な箱を2回乗り継いだ。全体で30分くらいの移動だったけど、移動距離はよく分からない。てか、本部地下の各所に見られるテクノロジーがどれも近未来的だったので、そっちにばかり気を取られてしまいまして…。ぶっちゃけ移動時間もあってる自信ないです。
地下のドアが開くと、そこは未来だった…。あ、言ってみたかっただけです。特に意味はありません。
この1週間、私は霧島先輩としか会っていない。先輩だけは毎日面会に来てくれる。家族や学校には「急なバレエ留学」と説明してあるらしい。
天地がひっくり返っても私ごときに留学の声は掛かりませんけどね!
そんな状況なので、テレビを見るのが唯一の楽しみと言っても過言ではない。それなのにこのテレビときたら、1日に3回しかテレビを観ることができない!しかも1回1時間で切れる。なぜか視聴時間帯とチャンネルは予約制。なので、選ぶのに失敗するとハズレ枠を引くことになる。昨日は暴れん坊のお侍さんが文字通り大暴れする時代劇を観て、貴重な午後の1時間を過ごした。
予約した以外の残り21時間は、騎士団チャンネルという怪しげな独自番組が強制放送されている。
騎士団チャンネルを観て分かったこと…。
サバイバル部の5人はアイドルだった!
ViPという彼女達のユニットは、こっち(ヴァンパイア界)で世界的人気を誇っています!しかも、井伊さんはお嫁さんにしたいヴァンパイア、堂々の世界第1位!
正体をリークしてやろうかしら?
アメイジングな最新兵器の紹介や眠くなるお偉いさんの話を放送している時間帯もあるけど、騎士団チャンネルの大半は、美人団員ランキング、美男子団員ランキング、ViP関連、と「どうでもいい」コンテンツを放送している。
ちなみに放送言語は全てヴァンパイア語です。
昨日、霧島先輩が面会に来た時、たまたまViPのPVが流れていて、モニターの中の先輩が投げキッスをしているタイミングに重なった。
自分に投げキッスされた先輩が上着の裾を掴んで俯き、赤面している姿は、同性の私でも恋に落ちそうなほど可愛らしかった。
ストレッチしながらオンセットの練習をしていると、スーパーアイドル霧島リカ先輩が「失礼します」と一礼してやってきた。部屋に入るなりモニターをチラ見。地上波が流れているのを確認できた時の安堵の表情は、やっぱり恋に落ちそうなほど可愛らしい。
「田中さんのバイタルを1週間チェックしていますが、V濃度に変化が見られません。精密検査を受けていただきたいのですが、構いませんか?」
「この部屋から出れるんですか?」
「?医療棟との往復になりますが、この部屋は出られます。」
先輩は少し怪訝な顔をして答える。
「やります!精密検査します!」
軟禁状態に辟易していた私は二つ返事でOKした。