爆乳井伊さんと二階堂姉妹の模擬戦は、まさかの銃撃戦だった。
これはリアライズと呼ばれるヴァンパイアの能力の1つ、「実体化現象」を使った戦い方だと、霧島先輩が教えてくれた。お互いの弾丸が飛び交う様は、まさに戦場そのものだ。
ツインズの特徴は、姉が銃器やシールドをリアライズし、妹が銃器の弾薬をリアライズすること。
彼女達は自らが変化しない分、リアライズに長けているようだ。しかし観戦している間、リアライズした武器や弾薬をVマイクロムに戻す所を一度も見かけなかった。
恐らく戻せないのだろう。Vマイクロムの使い捨て。つまり戦いが長引くほど、どんどん体内濃度が下がっていくわけだ。
その欠点を補うために、ツインズはリアライズした大きめのミリタリーポーチを腰に装着していて、その中に沢山の血液パックを詰め込んでいる。
一方の爆乳さんも、同じく盾や弾丸の様な「道具」を使って戦っている。こちらは出し入れ自由、というか、どこからともなく取り出しては、忽然と消える印象だ。
私にはあの道具の仕組みが全く理解できない。まさか母乳ですか?
「答えは、水です。」
傾げた私の首が90度を超えた辺りで霧島先輩が謎を教えてくれた。
爆乳さんは空気中の水分を集積加工することで水の盾や弾丸を作り出しているそうだ。不要になったら分散させるので再利用が可能だという。
「水でVマイクロムの弾を防げるんですか?」
「不思議ですか?水は、ちょっと工夫すればダイヤモンドだって切断できるのですよ。」
なるほど。「スゲェやばぃ水」ってことですね。
「ボク達の勝ちだぁ!」
マリナさんの声が響き渡った。手に持ってるのは…
ミサイルランチャー!?
ミサイル発射と同時に、ツインズは姉がリアライズした簡易シェルターに身を隠す。
これまで体験したことのない熱風が私を、空間を襲う。この熱風は水を無効化するため?
てゆーか、ギャラリーにもシェルター用意して!
「その程度じゃ、満足できないですぅ☆」
ミサイルを前にしても爆乳さんは余裕だ。両手でハートを形作りウインクすると、ハートに向かって息を吹き始めた。
「マリナ、あれ、ヤバめ!」
「…ちっ、デカ乳が!」
「マリたん、聞こえてますよぉ~☆チコ、激おこっ☆」
改めて彼女達の本名を紹介する。二階堂ツインズの姉がマリナ、妹がレイナ。爆乳さんが井伊知子、である。
爆乳さんが作り出したのはシャボン玉ちっくなもの。息を吹く度にどんどん大きくなっていく。
ちょうど飛来するミサイルと同じくらいの大きさになったとき、爆乳さんがバカっぽく叫んだ。
「メロメロになっちゃえ~☆」
相手がメロメロになっちゃう技なんて、幼児向けの某パン男が謎のバイキン星人を折檻するアニメでしか聞いたことがない。
☆ぽきゅんんんっ☆
これはミサイルが爆乳さんのシャボン玉に触れた瞬間の音。
音は可愛らしかった…。でも、そのあとは全然可愛くなかった!
メロメロというより「ドロドロ」の方が適切だ。シャボン玉の中に飲み込まれたミサイルが、みるみる溶けていく。
霧島先輩が言うには、爆乳さんの唾液が起こす現象らしい。
「ルサールカの接吻は、死の接吻と呼ばれています。」
「マジですか…。爆乳で男を釣って、キスで溶かす…どんだけですか!」
「何がですか?」
霧島先輩の反応は正解だと思います。
それよりも、先輩に死の接吻についての感想を述べた、ほんの僅かの間に、私は爆乳さんを見失ってしまった。
さっきまでシャボン玉の後ろに居たはずなのに、いつの間にか消えている。
「レイナ、いまだっ!」
再びマリナさんの声が響いた。慌ててツインズの方に向きなおすと、ツインズの頭上に爆乳さんが浮いている。
「おっけー♪ぽち。」
レイナさんがスイッチっぽい何かを押した…と思う。