みんなの元に到着すると、霧島先輩が眼力で「降りろ!」と言っている気がしたので、喜んで掌から降りた。


「これは?」

「胸につけていたアナライザーから送られてきた、今の模擬戦を数値化したデータです。この赤いグラフが田中さんで、青いグラフがリオンです。」

 霧島先輩は私の問いに的確に答えてくれる…はずなんだけど、今回はハズレ。

 私が指差したのは変な棒でした。下敷きと同じでホログラムが表示されてるから、棒型タブレットなんだと思います。棒型でもタブレットって呼んで良いの?
 マリナさんの後ろに移動してホログラムを覗くと、ゲームの攻略本なんかでよく見る6項目を評価するチャートグラフが浮かんでいた。

 マリナさんってシャンプーなに使ってるだろぉ?めっちゃ良い匂いするぅ。

 先ほどの先輩の説明通り、赤と青2つのグラフが並んでいる。
 私のデータだと言う赤いグラフは、上下と右上の数値が高い変な形をしている。他の3項目は素人目に見てもゴミのようだ。ちなみに上下の数値は比較的高いと思われる右上の数値の5倍以上伸びている。
 一方の神河さんの青いグラフは、右上の数値が他の1.5倍なのを除けば綺麗な形をしている。ただ、彼女のグラフは2つ重なっているように見える。


「分かりにくいかしら?2人のグラフを重ねてみましょう。」

 先輩は当たり前のようにホログラムをつまんで、私と神河さんのグラフを重ねた。
 その結果、唯一比較対象になりそうな赤の右上の数値が、青のちょうど半分くらいに収まった。あとのバランスは前述の通り。赤の上下の項目は、青のグラフと重ねても飛び抜けて高い。


「リカにゃん部長、この数値、バグっぽくね?」

 レイナさんが私の上の項目をツンツンしながら聞いた。
 霧島先輩は口角を上げて不敵に笑うと首を小さく横に振った。


「バグじゃないわ。私には見えた。これが金毛種なのよ!」

 ドドォォーン!
 この瞬間に効果音が入るとすれば、こんな感じではないだろうか。
 ちなみに私の上の数値で盛り上がっているのは3年生の2人だけっぽい。



「あのー、なんで神河さんのグラフだけ2重なんですか?」

 一番親しみやすい気がする井伊さんに聞いてみた。決して隣りにいるからではない。
 決して見下ろすことになるから二階堂姉妹に声が掛けづらいのではない。決して副部長が怖いからではない。
 ツインテールを「狙ってる」とか言ってすみませんでした!


「あれはねー、宿主とVの両方の数値を表示してるからだよ。点線が宿主ね。」

「私のグラフ…1つしか表示されてませんけど…?」

 何度目を凝らしても赤のグラフは実線しかない。



「…おほん。ここにあります。」

 数秒の沈黙の後、霧島先輩が綺麗な指でグラフの中心を指差した。
 控えめにハートがデコられた先輩の爪の先の先の先…。よく見ると中心付近の色がちょっとだけ違っている。