私を中心に音の渦が拡大していく。遥か遠く、海の彼方まで…。

 世界は騒がしい。私は輝く音に導かれるまま、音の渦を渡った。


 大きな街。忙しく行き交う人々。歌が聴こえる。大きな塔の上。優しい歌。輝く音。美しい声の波。

 綺麗な街。悠々と空を舞う鳥達。歌が聴こえる。大きな城の上。優しい歌。輝く音。力強い声の波。


 2つの波が重なってお互いを「ゼロ」にした。重なったのは、ちょうど反対側の中心。


 それを合図にゼロの拡散が始まる。
 重なった音がどんどん消えてゆく。

 まもなく音の渦がゼロで満たされる。


 そして静寂が訪れた。



 幕が上がった舞台は、音が溢れ出す直前の一瞬だけ、静寂に支配される。
 耳を澄ませば中央に立つ演者の鼓動が聴こえてきそうなほどの静寂だ。
 音が溢れ出すタイミングは決まっている。

 それは、演者の鼓動と鼓動の間。無音の時。


 私の鼓動だけが聴こえる。

 待ちわびた瞬間がきた。
 これからこの舞台の中央で舞うのは私だ。


 鼓動が支配する静寂の中で力強く瞳を開け、私は自分の鼓動をゼロにした。

 無音の時。



 それまで重なっていた音が一気に弾けた。この世界に再び音が溢れ、音と共に身体の中心から湧き上がった金色の輝きは、私を螺旋状に幾重にも包み、やがて真球へと変化した。

 暖かかった。
 とても心地よかった。


 そして、本当の私が産声を上げた。