「胸部にVアナライザーをつけて模擬戦を行います。相手のアナライザーを破壊した方の勝ちとします。」

「Vアナライザーの破壊…確認した。」

 息ピッタリの二階堂姉妹にカチャカチャとVアナライザーなる装置をつけられる私。七五三の着付けを思い出しました。
 Vアナライザーは、簡単に言うと剣道の防具に似た形をした柔らかいゴムベストで、装着するとボディーラインに合わせてフィットする。そのフィット感のお陰で装着している感じが全くしない。


「オンセット!真なる姿をここに!」

 霧島先輩の号令と同時に漆黒の光に包まれる神河さん。初めて黒毛種の変身を間近で見た。身体の芯にビリビリと恐怖を感じる。


『お願い!私を守って!』

 私は目を閉じ、心静かにVマイクロムに呼びかけた。目を閉じても神河さんから感じる漆黒の恐怖は拭えなかった。
 自分の周りがゆっくりと金色に輝いていくのを感じる。無駄にゴージャスな金髪が腰まで伸び、私の変身が完了した。


「これが金毛種のオンセット!」

 霧島先輩は私の変身を見るなり異常なほどの興奮をみせ、どこからともなく取り出したぬいぐるみ型カメラで連写撮影を始めた。マリナさん曰く、「部長はVフェチ」らしい。



「ん?田中さんは姿を変えなくて良いのですか?」

「はい?少し変わってませんか?」

「それは通常変化です。我々ヴァンパイアは真の姿を持っています。リオンも変わっているでしょう?素性を隠す意味でも有用です。」


 …変わっている!
 恐怖のせいでよく見れていなかったけど、確かに変わっている。変わっているというか、もはや別の生き物。
 どちらかというと…


「ベルセルク。リオンの一族のイメージは、獣人の凶戦士。そして、私の一族はこれです…。」

 一瞬でオンセットした銀色に輝く先輩を見て、思わず息を飲んだ。


「デモネス。…悪魔です。」

 先輩の持つ本来の美しさをそのままに、悪魔の要素が加わることで別次元の美しさへと変わる。美しいが氷のように冷たい。真の姿に変わった先輩は、見る者に死を連想させる。


「きれい…。」

 思わず声に出てしまった。


「怖くはないのですか?」

 怖いほどきれいだ、と素直な感想を伝えると、霧島先輩はキョトンとした後に薄っすらと頬を赤くした。


「金毛種は世襲ではないと聞きます。きっと各代で姿が違うのでしょう。もう一度心を鎮めて、もっと深く自分の中に潜ってください。宿主は必ず本当の姿を持っています。安心しなさい。ここは騎士団の施設です。部外者に見られることはありません。思う存分、本来のあなたを見つけてください。」

 照れ隠しなのか先輩は早口でまくし立てると私の背中をドンと押した。


 私は再び心静かに、金色の瞼を閉じた。
 耳を全開にして、この世の全ての音を、全ての周波数を自分の中に取り入れる。

 騒音の中心にある静寂。きっとそこが私のステージだ!…と思いたい。