ペラ男が置いていった「下敷き」には、分かりやすくまとめられた資料が1つだけ入っていた。
ファイル名の『銀毛種教育用資料(13歳向け)』ってのに若干イラっとしつつも、ちゃっかり読んでる私。
お察しの通り、下敷きは超薄型のタブレットみたいです。
その資料によると、吸血行為そのものは宿主ではなくVマイクロムが行うらしい。その際、宿主の脳波とリンクしている影響で宿主の生態に近い行動になる。噛みつきはVマイクロムにとって非常に分かりやすい摂食行動である。宿主の意思なのか、Vマイクロムの意思なのか、はこの資料で言及されていないが、結果として宿主は噛みつきを選択する。そして宿主が噛み付くとVマイクロム自身が宿主の口腔内に出現して直接吸血する。事情を知らない人からすれば、宿主が吸血しているように見えるわけだ。また血が極端に足りない状況では、Vマイクロムが突然オンセットしたり、オンセット時に形態を変えた例もあるらしい。
因みに、このページには「Vマイクロム満タン=5リットル=人間1人分」を意味するイラストが描かれている。
他にも各種Vマイクロムの個体数は、ほとんど変動しないと書かれていた。金毛種は常に3体しか存在しないらしいので、私はその1体になってしまったということだ。個体数が変動しない理由は、Vマイクロムが宿主を乗り換えていくことにある。Vマイクロムは、宿主の命が危うくなると適性のある別の宿主見つけて新たに寄生する。結局のところ太古に飛来した最初のVマイクロムがそのまま生き残っているのだ。通常は宿主存命中に乗り換えを行うようだが、稀に宿主が突然死した場合は、Vマイクロムがドッペルゲンガーと呼ばれる宿主を模倣した形態で出現し、新たな宿主を探して彷徨うという。しかしこのドッペルゲンガーの状態は非常に脆く、黒毛種のドッペルゲンガーの場合、1時間程度で消滅してしまうらしい。詳しく観測されているのは黒毛種のドッペルゲンガーだけなので、他の種のドッペルゲンガーは生存時間がもう少し長い可能性もあると補足されていた。
宿主が死んじゃったら人に化けて襲うってことか。ペラ男の話から考えたら、私を襲ったのは前の金毛種のドッペルゲンガーなのかな?たまたま近くにいた適性者が私だったとか、まじウケる!
資料を読み進めて分かったこと。
宿主適性は遺伝しやすい傾向にあって、ヴァンパイア界ではVマイクロムを代々世襲するのが一般的。寄生後も生殖は可能。寄生されると寿命が約2倍になるので世襲はひ孫や玄孫。銀毛種と黒毛種は人間と同じ方法で殺害可能。しかしVマイクロムに邪魔されるので簡単ではない。金毛種の殺害は特殊な方法を用いる、とだけ。
独自の社会構造(通称、王国?)を持っていて、現在は王制ではなく銀毛種の中の長毛種10人を長とした元老院が仕切っている。人間の各国政府はヴァンパイアを認知済みだが、まだ一般人は知らない。1000年前に人間とヴァンパイアは戦争をした。その戦争はヴァンパイアが勝利して、それからは相互干渉しないことを条件に共存している。輸血の技術が確立されてからは各国政府からヴァンパイア向けに輸血用血液が配布される様になり、1920年代初期に吸血目的で人を襲わない条約ができた。
金毛種は王国に属していない。ロンドンに1体、東京に1体、ハバナに1体、生息が確認されている。戦争時は王国側についたが、終戦後は人間と王国に干渉してきたことはない。
王国騎士団のページには、それぞれの戦闘能力比較もあった。宿主は、黒毛種>銀毛種>金毛種≧人間の順で強く、Vマイクロムは、銀毛種≧金毛種>黒毛種の順になる。ただし金毛種は滅多に戦わないのでVマイクロムの強さは不明。金毛種の宿主の身体能力は人間並みだが、不死のため結果としては人間に競り勝つ。
騎士団は昔からの名称で、今の実態は小規模な軍隊。人間の物とは違う、独自開発された兵器を用いる。
軍隊とか…いい加減あきてきた…。知りたい事は分かったし、もぅ寝よ。
最後の方のおまけページにこんな事が書いてあった。
『Vマイクロムによる人類進化説』
絶滅種の赤毛種が初期の猿人に寄生して人類が進化した可能性。赤毛種は現行種より先に飛来していた痕跡があり、宿主の五感を向上させる赤毛種の特性で、猿人の脳容積拡大の一因になったとする説。現行種の残した古い記録には赤毛種との交流も記されているが、多くは現行種と入れ替わる形で絶滅したと考えられる。徐々に適性のある宿主が減ったことが、赤毛種絶滅の原因と考えられている。
『たまたま近くにいた適性者が私だった、かぁ…。』
眠りに落ちる直前、ふと、自分の言葉を思い出した。願わくば明日からの日常を平穏に過ごしたい。