私は昨日の事を余すことなく(マルチーズの処理は除く)ペラ男に話した。
アゴが割れてるくせに、ペラ男は私の身に起こった事とそこから推測できる事を丁寧に教えてくれた。
ちなみにペラ男は、かなり良い家のご子息らしいです。28歳、独身。アゴが割れてるくせに。
ペラ男曰く、間違いなく私はヴァンパンアになっている、とのこと。
彼の言うヴァンパイアとは、私達が物語の中で見聞きする呪いちっくなモンスターではなく、太古に宇宙から飛来した生物に寄生される事で起こる病気のようなものらしいです。長年の研究の甲斐もあって、今では色々と分かってきたとか。
Vマイクロムと呼ばれるこの生物と人間が、人間を宿主とする明確な寄生関係にあること。人間の血液を栄養にしていること。宿主の組成に入り込むこと。宿主の脳波とシンクロして動くこと。などなど。
ちなみに口語だとVマイクロムのことを単にVと呼んだりする。
一番の特徴は、Vマイクロムが人間の体組成を組み替える能力を持っていることだ、とペラ男が指をアゴに当ててドヤ顔で言った。アゴが割れてるくせに。
その組み替え能力のお陰で、感覚の向上と「オンセット」という現象が起こるそうです。
オンセットって言うのは、Vマイクロムが体表面に発現している状態のことで、私の場合で言うと、無駄にゴージャスな金髪が生えている、まさに今の状態。Vマイクロムが宿主をコーティングしてるんだって。へー、すごいね。ちょっと飽きてきた…。
ペラ男のペラモードスイッチが入ってしまったようなので、ここからは適当に抜粋してお送りします。
Vマイクロムは1種ではなく、現在までに寄生症状の異なる以下の4種が確認されている。上から順に上位種と考えられている。
金毛種:オンセット時は金色。宿主の治癒力を向上させ聴覚を補助する。世界に3体のみ。私はこれ?
銀毛種:オンセット時は銀色。宿主の反応速度と脚力を向上させ視覚を補助する。世界に約250体。ペラ男はこれ。
黒毛種:オンセット時は黒色。宿主の骨格と腕力を向上させ嗅覚を補助する。世界に5000体以上いる。
赤毛種:オンセット時は赤色。宿主の知性を向上させ五感全てを補助する。絶滅したとされる。
その他に確認されている一般症状:
一部のアレルギー反応が致死レベルまで強くなる。対象アレルギー8種。
補助される感覚器以外にも影響が出る場合がある。
感情の起伏が寄生前後で変わる場合がある。
「物語で銀に弱いだの、日光に弱いだの、あるだろう。あれは、ただのアレルギー反応だ。」
マジか…真実は意外とショボい。てか、にんにくアレルギーでも致死っちゃうってことなのか?
「これらの症状はオマケ程度だ、最も注目すべき特徴は他にある…。」
脳波ネットワークが形成されることだ、とペラ男はなぜか遥か遠くを見つめる感じで言った。カッコつけたつもりかも知れないけど、アゴ割れてるし、そもそもこの部屋には窓がない。
「脳波ネットワークがあるのに何で私達は会話してるのよ?」
「そ、それは、まだ発展途上なのだ。」
今は情報が一方通行であることが多い上に、大まかな位置特定程度のことしかできない、とペラ男は肩とアゴを落として説明を締めくくった。最近になって突然確認されるようになった症状みたいで、まだ謎が多いらしい。
「じゃあ、この言葉は何?」
「あぁ、長老達はヴァンパイア語と呼んでいる。これはVが直接理解できる音波だ。」
「喋ってるのは私達じゃん。」
「宿主が人語で理解した内容をVが脳波から読み取るよりも伝達が早いのだよ。寄生された宿主は無意識下でその音波、つまりヴァンパイア語を理解できるようになる。早い話、暗号だな。」
「へー。」
2日目にして謎がどんどん解けていく。私は正真正銘のヴァンパイアです!しかもチョーレアです!