夏のある日。

告知を終えて次の日のこと。

私とはやては、尿検査を受けるため大学病院へ行った。

 

夏になると小食になるはやては、ほとんど朝食をとらずに

家を出た。

 

大学病院へは、電車とバスを乗り継ぎ2時間の旅。

たいくつしのぎに、はやてはお気に入りの雑誌を

リュックに詰め込んで出発。

 

まずは主要な駅まで1時間。

立ちっぱなしで、すでに疲れ気味のはやて。

その後の電車とバスは座れたものの、

改めて家からの遠さを感じた。

 

私がはやてに、

「ここの病院って本当に遠いでしょ?

だから、1時間ぐらいで行ける病院をお父さんと

一緒に探したんだよ。

そこでも(血液)検査はしてくれるって。

どっちがいいか、はやてが選んでいいからね。」

と言うと、

「うーん。でも、そこの病院は知らない先生だよね?

僕、知らない先生はちょっと・・・。」

とはやて。

 

これまでの患者会や交流会に、子どもたちを連れて

行っていた。

そこで何度か大学病院に来て、主治医の先生と顔を合わせて

いるので、はやては大学病院と先生に全くの初めて

というわけではない。

 

そういうちょっとしたことが、不安を取り除くことにも

つながっていたのかもしれない。

 

予定の時間より1時間待って、はやては先生と話をした。

先生は、病気の詳しいことは話さなかった。

胸や背中に聴診器を当てたり、足の感覚を確かめて、

「今年の夏は暑いけど、汗はかいてる?

熱中症にはなってない?暑いとき、手足が痺れたりしない?」

と少し様子を探っていた。

「しません。」

ときっぱり答えていたので、今のところは四肢疼痛らしい症状は

ないらしい。

 

「お母さんと同じような検査をしようか?

ちょっと血を取って、おしっこを出すだけ。」

と先生。

私とはやては顔を見合わせた。

はやての目には涙がにじんできた。

私はあわてて、

「先生、今日は尿検査だけのはずですが?」

と聞いてみると、先生もあわてて

「そうそう。今日はおしっこだけだった。」

と言ってくれたので、親子でほっとした。

 

尿検査の結果を聞きに来るのは私だけ。

血液検査は、尿検査の結果が出てから考えるとのこと。

 

無事に終わってバスを待つ間、いろいろ話をした。

「実はね、学校の先生たちも、はやてがファブリー病の

可能性があることを知ってるんだよ。

1年生の担任の先生、2年生の先生、今の先生も。」

「え?本当?!」

「うん。お母さんが毎年4月ごろに学校へ行って、

先生にファブリー病のことをお話ししてるんだ。

あと、何かあったら家に知らせて下さいって。」

「それで先生が家に電話してくれるんだね?」

「そう。でも、病気かもしれないと恐れず、元気な子どもと

同じように扱って下さいともお願いしてるから、

気づかなかったかもしれないね。」

「うん、全然気づかなかった。」

 

はやては、今までの担任の先生が知っていたこと、

そうやって気遣ってくれていたことに、少し感慨深げだった。

「先生たち、みんな僕のことを気にしてくれていたんだね。」

「うん、はやての知らないところで見守っていてくれたんだよ。」

「ありがたいね。」

「本当にいい先生たちで、ありがたいよ。」

そういいながら帰りのバスを待った。

 

バスを待つ間、はやてが

「お母さん、今日はこんな遠いところまで一緒に来てくれて

ありがとう。長い時間つきあってもらって、お疲れ様。」

とねぎらってくれた。

 

こちらこそ、病院に来ることを決断してくれて

ありがとう。

愚痴もこぼさず最後まで頑張ってくれて

ありがとう。

 

そして―

この日を迎えるまで支えてくれた方々、

本当にありがとうございました。