村山槐多 小説、随筆そして絵画 その2 | 村山槐多 小説、随筆そして絵画

村山槐多 小説、随筆そして絵画 その2

村山槐多 小説、随筆そして絵画 その2 「冬景色」

 インターネットオークションに2枚の村山槐多の作品を見つけました。「房州風景」は落札することは出来ませんでしたが、「冬景色」(仮題)は落札しました。その2作品に描かれている風景における心情は、彼の小説等にも同じものが書かれています。

 村山槐多 むらやまかいた(1896- 1919)
 村山槐多は、わずか22歳で夭折した画家です。彼は、京都府立第一中学校在籍中多数の詩や小説(探偵小説・幻想文学)、戯曲などを創作しました。
 「タウン誌 深川 クリオ・プロジェクト」には、次の様な記載がありました。
 槐多はその尋常でない集中力をもって、デッサン、油絵と描きまくっているが、その生活ぶりはデカダンスに彩られ、滅茶苦茶と云ってよかった。赤貧に喘ぎながらも、浴びるように酒を飲み、数々の奇行、失態を演じている。発病してからも健康を取り戻すべく改心するのは一時で、長くは続かず、度々血を吐いてはまた酒を飲む。帯などとっくに質に入れ、代わりの荒縄にドロだらけの足と、擦り減って歯がなくなってしまった下駄でスケッチに歩き回った。
 

「冬景色」(仮題)

 出品者作品紹介:
 本作品は東京の知人の紹介で、山梨県の旧家へ御邪魔しての蔵出しです。現在の主人はこの絵の存在と言うよりも蔵の中に何があるのかもご存じなかった。とりあえず私はこの絵を大変気に入り、興味が湧いたので買い取りました。槐多が信州より足を伸ばして山梨まで写生旅行にでも来ていたのかなどと考えると面白いですよ。この風景は多分、葡萄の木の様な感じがするからです。画面全体から槐多の短命で懸命に燃えた人生を感じさせる哀愁が漂っている。板の時代・筆の勢い・色彩・空の色調・力の有るサイン等、私は少なくとも「間違い無い作品」と判断して居ります。無論、蔵出し未鑑定の為、保証無しでお願いします。絵の支持体は板・技法は油彩・サイズは4号です。この絵を自分の目で見て判断して気に入った方のご入札をお待ちしております。

 彼の随筆「遺書」です。 

 第一の遺書

 自分は、自分の心と、肉体との傾向が著しくデカダンスの色を帯びて居る事を十五、六歳から気付いて居ました。
 私は落ちていく事がその命でありました。
 是は恐ろしい血統の宿命です。
 肺病は最後の段階です。
 宿命的に、下へ下へと行く者を、引き上げよう、引き上げようとして下すつた小杉さん、鼎さん其の他の知人友人に私は感謝します。
 たとへ此の生が、小生の罪でないにしろ、私は地獄へ陥ちるでせう。最低の地獄にまで。さらば。
一九一八年末

 第二の遺書

 「神さま、私はもうこのみにくさにつかれました。」
 涙はかれました。私をこのみにくさから離して下さいまし。地獄の暗に私を投げ入れて下さいまし。死を心からお願いするのです。
 神さま、ほんとです。いつまでも私をおめし下さいまし。愛のない生がいまの私のすべてです。私には愛の泉が涸れてしまひました、ああ私の心は愛の廃園です。何といふさびしさ。
 こんなさびしい生がありませうか。私はこの血に根ざしたさびしさに殺されます。私はもう影です。生きた屍です。神よ、一刻も早く私をめして下さいまし。私を死の黒布でかくして下さいまし。そして地獄の暗の中に、かくして置て下さいまし。どんな苦も受けます。ただ愛のない血族の一人としての私を決してふたたび、ふたたびこの世へお出しにならない様に。
 私はもう決心しました。明日から先はもう冥土の旅だと考へました。
 神よ私は死を恐れません。恐れぬばかりか慕ふのです。ただ神さまのみ心を逆らつて自殺する事はいたしません。
 神よ、み心のままに私を、このみにくき者を、この世の苦しい涙からすくひ玉はんことを。くらいくらい他界へ。」

 第三の遺書

 神よ、神よ
 この夜を平安にすごさしたまへ
 われをしてこのまま
 この腕のままこの心のまま
 この夜を越させてください
 あす一日このままに置いて下さい
 描きかけの画をあすもつづけることの出来ますやうに。
 神よ
 いましばらく私を生かしておいて下さい
 私は一日の生の為めに女に生涯ふれるなと言はれればその言葉にもしたがひませう
 いかなるクレオパトラにもまさります
 生きて居れば空が見られ木がみられ
 画が描ける
 あすもあの写生をつづけられる。
 村山槐多(1919/02/20)

村山槐多は結核という当時は不治の病に冒されていました。当時は、よい治療法がなくただ死を待つのみでした。
 「・・・ 生きて居れば空が見られ木がみられ 画が描ける あすもあの写生をつづけられる。」


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