ひと月に一回のペースで、児童養護施の慰問に行き始めて、1年半近くたって、子どもたちの様子もわかってきて、向こうもだいぶん慕ってくれるようになってきた

 

 

今日はKちゃんのお誕生日で、お祝いの手紙を渡すと

 

 

「えっつ?覚えててくれたん?」

 

 

「当たり前よ、何回目かの時に教えてくれたでしょ?そのとき手帳に書いておいたの」

 

 

そう言うとKちゃんは嬉しそうに、はにかんで笑った

 

 

私は子どもたちの名前は下の名前だけしか知らず、それも音の響きだけで、漢字での本名は知らない

 

 

プライバシーの問題があるから、そこから先には踏み込まないのが、私たちボランティアの約束だから

 

 

Kちゃんは小さい子どもの面倒見の良い優しい子で、頭の回転が速く、絵が上手で、すらりと長身で美しい

 

 

明るくポジティブで、おとなびた一面もあり、18歳でここを出てからのことも、きちんと将来設計をしているからびっくり

 

 

そしてなぜか、彼女にはみな悩みを相談したくなるところがあって、これは天性のものかもしれない

 

 

春から中学生になり、いっきに彼女の世界も広がる

 

 

すべての大人を信じている訳ではなく、彼女にも陰と陽の面もあり、なぜか私にはそっと本音を言ってくれる時がある

 

 

今日は入りたての高校生の男の子もいて、複雑な思いを教えてくれた

 

 

「高校を出たら、なりたい職業とか、やりたいことはあるの?」と私が言うと

 

 

「はい、もう決めています・・・」

 

 

「へえ・・・そうなの?それはすごいね!あなたならできると思うわ・・・今はいろいろと大変だろうけど、きっとあなたはしっかりしているから、いい友達や、あなたのことを好きになってくれるガールフレンドもできるんじゃないかしらね」

 

 

そう言うと、笑ってうんうんとうなずき、目線を上に移し

 

 

「散歩に行ってみたいんです・・・ここにはすてきな道が

たくさんあるから・・・」

 

 

緑に囲まれている施設の周りにはすてきな散歩に適した小道がある

 

 

ここの施設で育った子どもは、みんな言いたいことが言えて明るくひょうきんだけど、ショートステイで来ている子どもや、まだ入りたての子どもは、みなお行儀が良く、敬語でしゃべるので、かえっていじらしくなる・・・

 

 

高校を卒業したら、その後は国からの支援は薄く、進学にかかる費用はみな、奨学金を借りるのだとか・・・

 

 

「結局、借金だから、やっぱり進学するのは難しいですね」

職員の言葉だ

 

 

もちろん親を頼ることもできない彼らは、自立して自分を養っていくしかない

 

 

「また、来月も来るから、よかったら話そうね・・・」そう高校生の彼に行って別れを告げた

 

 

部屋にいたKちゃんに帰ることを伝えたら、「もう帰るの?

お手紙を書いていたんよ。まだ書き終わっていないから郵便で出すね」と答えてくれた

 

 

今日は中一のS君にも会えて、久しぶりだったのでなつかしかったせいか、お互いに手を差し出して、気が付いたら手を握り合っていた

 

 

「おばさん久しぶり、今日は部活が休みだったから会えたな・・・」

 

 

「テニス上手になった?いじめっ子はいない?勉強は大丈夫?」とつい親のように言うと

 

 

「大丈夫!やられたら俺はやりかえすから!ハハハ」

 

 

どの子もどんどん成長して、私は取り残されている感じ

 

 

今日は里親の研修に来ているご夫婦もいた

 

 

いずれどこかの施設から子どもを迎え入れたいとのこと・・・

 

 

どの子どもを里子として預かるかは、とてもデリケートなことなので、慎重にも慎重をきして、マッチングをするのだそうだ

 

 

私は里親にはなれないけれど、こうして彼らの育ちの一部分にでも関わらせてもらえるだけで、幸せだ

 

 

私の夫も昔、母親が精神を病んでいて、いわゆる「ネグレクト」された子どもだった

 

 

ただ、夫の父が優しい人で、仕事をしながら妻の世話をしつつ子どもたちを育てた

 

 

それでも男所帯の家はやはり大変で、周りに助けてくれる人もおらず、母親はいつも寝ていて、夫は甘えたこともなく寂しい子ども時代を送った

 

 

二つ上の兄と、「早く自立してこの家を出よう!」と互いに励ましあって育ったという

 

 

私がなぜ、あの子たちをほっとけないのかは、夫の影響が大きく、夫とあの子どもたちが重なって見えるのだ・・・

 

 

お昼になって帰る際、子どもたちが手を振ってくれた

 

 

「バイバイ・・・バイバイ」

 

 

私も車から手を振った

 

 

バイバイ・・・また来るね、なんの力にもなれなくてごめんね・・・でもいつもみんなの幸せを祈っている・・・