「鰐~ワニ~」 (韓国、1996年) | 無節操ニンゲンのきまま生活

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キム・ギドク監督の作品を録り貯めしたので、

ちょくちょく見ることになりそうです。

どうせなら時系列にと思い、まずは処女作品から。

監督はキム・ギドク監督、

出演はチョ・ジェヒョン、ウ・ユンギョン、チョン・ムソン。



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


漢江に架かる橋の下に住む浮浪者の男。

“ワニ”と呼ばれる彼は、橋から身投げした自殺者の金品をかすめ取るなど

極悪非道な振る舞いをして暮らしていた。

ある日、一人の美女が橋から身投げし、彼女を助けたワニ。

しかし彼はそのまま女を強姦し、性のはけ口として彼女を弄ぶのだが・・・というお話。


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


【少しだけネタバレあり】



まずい。まずいぞこれは。
ギドクの描く孤独な男に完全にはまってしまいそうだ。

この映画は彼の処女作。
正直話にわからないところもあるし、
女の好きな男を取り巻く世界が唐突過ぎて浮いてしまっている。
色も全体的に暗めで、闇の中でどんな動きをしているのかはっきりつかめず
話がしばし途切れてしまう。
でも見終わって数日たった今も、作品の余韻が心の中に尾を引いている。


男はホームレス生活をしている男。
・・・の割にはずいぶんと身ぎれいなんだけど。
そばの川で身投げした人間の財布などを潜って盗み、
その金と詐欺まがいの商売でその日暮らしをしている。

ある日、恋に破れて身投げした女を助け、自分の欲望のままに陵辱する。
その頃の男は何に対してもいらつき、自ら孤独の中に己を置いていた。

最低の男のはずなのに、女を抱かなくなってからの彼が徐々に変わっていく。
いや、変わっていったから抱けなくなったのかもしれない。


自分の思いが募るごとに女に近づけなくなる男。
女が何を見て何を思い、何に絶望しているのか
愛を知らない男には知る術も持たないが、
その切ない表情がただただ痛々しい。
女に拒絶されてもなお、どうすれば女の痛みを取り除けるのかを考える。
後半彼の犯した犯罪は、女への無償の愛を示す
彼なりに考えた最高のプレゼントなのではないだろうか。


運命の夜、彼女と再び結ばれる男の手の動き、表情、彼女の抱きしめ方が
今までの募る思いと彼女を初めて大事に思う愛おしさを感じさせる。
最初の陵辱シーンとは対極的に、言葉も激しい場面もないのに
実に愛に満ちた官能的なシーンに仕上がっている。


あの水の世界で、彼はどんな夢を見ているのだろうか。
初めて自分の世界に招き入れた愛する女と共に。