吉田修一 「春、バーニーズで」 文藝春秋 | 無節操ニンゲンのきまま生活

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2015年2月よりイギリス・オックスフォードの近くで生活しています

春、バーニーズで
吉田 修一
春、バーニーズで

すごく薄くて読みやすい、吉田修一の短編集。


バツイチ子持ちの瞳と結婚し、文樹という子供の父親になった筒井の物語で、

彼の日常が描かれている短編がそろっている。


タイトルは、


春、バーニーズで

パパが電車をおりるころ

夫婦の悪戯

パーキングエリア

楽園


筒井の、淡々としながらも日常の小さいことにも傷ついたり感じ入ったりする姿に

次第に引き込まれていく。

瞳との夫婦の絆、義理の関係ではあるけれど自分を愛してくれる文樹との関係が

水のように心に浸透していく感覚で読んだ。


私が特に好きなのは「夫婦の悪戯」と「パーキングエリア」。


「夫婦の悪戯」はねえ・・・・どこかのカップルもしてるかもしれない「うそつきごっこ」を描いています。

お互いに1つずつウソをつく。

しかも偏見があるからこそ許せないようなことを話にする。

そんなゲーム。


でもね、ウソってまったく違うところからはなかなか出てこないじゃないですか。

だからつい自分の経験したことから作り話をしていくんだよね。

お互いにウソだと信じつつも、自分は経験をふまえた話を「ウソ」として話すもんだから

相手の「ウソ」も、「本当のことなんじゃないか」と疑ってしまう。

それで相手の意外なウソ(もしかしたら真実)に、お互いギクッとなってしまうんです。


夫婦になったら、相手の知らないところはないんじゃないかと錯覚してしまうほど

相手のことを知り尽くしているように思えてくるんだけど

実はそうじゃないんだなって。

それを「ウソのような真実」によって知らされたら

そりゃギクッとしまうよねえ^-^;;


もう1つの「パーキングエリア」は、

突然すべてから逃げ出したくなった筒井が会社を無断欠勤して

高速道路で遠くへ遠くへと逃げていこうとする話。


切っていた携帯には山のような伝言メッセージ。

その中に妻の、どう言葉をかけたらいいかわからない無言のメッセージと

最後に入れた妻の「・・・・大丈夫よね」という言葉。


たったこの一言で妻の夫への深い愛情を描いてしまうなんて

吉田修一さんはすごすぎるーーー。


少年時の思い出が詰まった地までたどり着き、

そこで筒井は妻に電話をする決心をするんです。

その夫に妻は「・・・大丈夫だよね?私ちゃんと待ってるから」と一言。

そしてそして最後に夫にスペシャルプレゼントを贈る妻。


夫婦ってこうじゃなくっちゃ!と思ってしまった。

支えるとかそんな大層なことではなく、

相手が日常でちょっとつまづいたときに

すぐに手を差し伸べるのではなく、自分で起き上がるのを静かに待っている余裕と相手への信頼感。

そんな余裕を持ち続けたいな、と。


静かで深い愛情が見事に描かれた癒しの一冊です^-^