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《白い磁気の魔法使い》の日によせて。
物語を創りました。
挿画もウタマロです。
皆様の魂にお届けします。
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《二つの顔を持つ王女》
ある森を王子が一人、旅していました。
王子の旅の目的は、
自分にとって”永遠に魅了される姫”
を見つけることでした。
野を越え、山を越え、町を過ぎ、
海を渡り・・・。
たくさんの姫に会いました。
けれど未だに”これぞ”と思える姫には
出会っておりませんでした。
*
ある深い森の中で、
王子は見たこともない壮麗な城を見つけました。
天を目指す尖塔が、
するどく立った豪奢な城です。
「今度こそ私の妻にふさわしい姫がいるはずだ」
王子は思います。
*
王子が城の前に立ちますと、
門は音もなく開きました。
どういうわけか、
家来は一人も出てきません。
城の内部は豪華絢爛。
王子が進むと、扉は静かに次々開き、
魔法が案内しているかのようでした。
*
やがて王子は、
謎めいた城のその奥で、
花の園を見つけました。
ありとあらゆる花たちが、
季節を問わずに咲いています。
たくさんの蝶、たくさんの小鳥。
木陰には果物が実っています。
小さな池には睡蓮が、
蕾をもたげて揺れていました。
*
「姫はここにいるはずだ!」
王子は胸をときめかせ、
くねった道を急ぎました。
奥へ進めば進むほど、
花は色濃く、香りも高く、
麗しく咲き乱れているのです。
王子の心も高鳴りました。
*
とうとう小さな東屋が
園の中に現れました。
石造りの瀟洒な場所です。
そしてそこには、
妖精の女王のような姿の姫が、
座って王子を待っていました。
フワリとした優雅なドレス、
金色の巻き毛。
繊細なティアラをつけています。
なんと気品に満ちていることでしょう。
王子の全身はうち震え、
姫の前にひざまずきました。
姫は薄いグレーの瞳で
王子をじっと見つめます。
王子の心は射抜かれました。
「ああ、王女様。あなたこそ、私の妻です。
どうか、我が国の未来の王妃になってください」
「そうですか。それはありがとう」
王女はあっさり答えました。
王子は言葉もないほど感激し、
その場で涙をこぼしました。
*
その夜のことでした。
王子は贅を尽くした客室に通されました。
絢爛豪華な天蓋ベットに横たわっても、
王子はなかなか寝つけません。
昼間の美しすぎる姫の姿が
王子のハートを高鳴らせたままだったのです。
*
・・・ふと見ると、
部屋の隅に小さな扉がありました。
金縁のアーチ型が、
なんとも秘密な感じです。
そっと開くと、
奥は薄暗い下り階段になっています。
王子は好奇心にかられ、
階段を降りてゆきました。
地下特有の古い空気が満ちています。
*
少しばかり行きますと、
薄暗いドーム状になっていました。
奇妙なことに、
壁は木の根で覆い尽くされているのです。
下はむき出しの地面でした。
上の豪奢な客間とは、
あまりにかけ離れている感じです。
王子はあっけにとられ、
しばしそこを見渡しました。
*
・・・と、
突如、黒いフード姿が立ち上がり、
王子は驚いて飛び退きました。
不気味な者は木の根のような杖をつき、
とても大きな姿です。
瞳は閉じていて、陰鬱な暗い表情。
ゴツゴツとした肌は木肌にも似ています。
グロテスクで得体の知れない者でした。
まるで地の底から湧いて出た、
黒い魔法使いのようでもあります。
そして「カッ!」とまぶたが開くと、
奇怪な目玉があったのです!
視線は王子を捕らえました。
王子は悲鳴を上げ、
無我夢中で降りてきた階段へ逃れました。
*
翌日、真昼のことでした。
王子は再び花の園へ行きました。
花たちの美しさは昨日に勝り、
そのかぐわしさの中を進むうち、
ゆうべの出来事は夢だったんだ・・・と、
王子は理解したのです。
*
そして再び王女の姿を見つけると、
その心は踊りました。
挨拶の後、
王子は微笑んで言いました。
「昨夜私は、おぞましい者に出くわしました。
でもしょせん夢でした。
世界はこんなにも美しい・・・」
それを聞いた王女の顔が曇りました。
王子はそれに気づかず続けました。
「私が見たのは地底の怪物。
あの醜さを表せる言葉は見つかりません」
「そうですか・・・」
王女はさみしげな瞳で言いました。
「あなたが出会ったのは、
私のもう一つの顔。
私の夜の顔なのです」
これはおかしな冗談でしょうか?
王子は理解できずにおりました。
「あなたが私を妻として娶る(めとる)には、
私の二つの顔、
両方を愛して頂かなければなりません。
その二つをもって、私なのです。
昼間の私だけを連れ帰ることはできません」
王子はわけがわかりません。
言葉を失ったままでした。
王女はかまわず続けます。
「昼と夜の私。
そのどちらが表で、
どちらが裏ということもありません。
夜の間の魔法によって、
この美しい園ができています。
おわかりですか?
あなたが見た、
醜くおぞましく得体の知れない私の部分が、
光の園を創っています。
昼間の私だけを娶ることはできません。
それは両方の私を失うことです」
王子はまだ飲み込めずにおりました。
さらに王女は続けます。
「私自身も、この花の園も大きな城も、
さらにはこの清々しい空も、
全ては私自身が創造したもの。
闇に隠れた木の根の部分は
これらを創り出す地下部分でもあるのです」
=空の高みで、鳥が一声鳴きました=
「二つの顔を愛して欲しいと、
あなたに無理強いを私はしません。
ただ、私自身の成り立ちは、
その二つからできていると、
知って欲しいと思いました。
光の昼と、闇の夜・・・。
永遠に世界を魅惑する私の魔法は、
こうしてできているのです。
どうぞ、お引き取りくださいまし。
遠い国の王子様。
あなた様の心で受けとめられる姫様が、
いつか見つかることでしょう・・・」
***
その後どのようにして城を去ったか、
王子には覚えがありません。
気づくと森を歩いていました。
夏の夕日がさしていました。
☆.。.†
:*・゜☆.。
†.:*・゜
完
copyright © izumi utamaro 2017・6・6
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《白い磁気の魔法使い》の日によせての物語。
お読みくださりありがとうございました。
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