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魔法を売る町7
魔法使いは慎重に言いました。
「当店の特徴は、
”本来のものでないもの”を "消す”魔法だからです」
「うそを消すってことかしら?」
娘は不思議そうに尋ねました。
「うそ・・・・というより、真実と相反するもの、
真実を邪魔しているものを取り去ります」
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そう言って魔法使いが水晶珠を見た時でした。
虹色の中に娘の姿が浮かび上がって来たのです。
彼は息を殺し、それをじっと見つめました。
その姿はやがて鮮明になりました。
そしてなんということでしょう・・・!
魔法使いにとって、かつて見たことのない像がそこにありました。
「どうかなさったの?」娘が問いかけました。
けれども彼には聞こえません。
魔法使いは冷たい汗をかき、青ざめながら、内部警報を聞いていました。
#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・
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そもそもこの水晶珠は、
お客の【真実の姿を映す力】があります。
外見だけでなく、内面もあからさまになるのでした。
どんなに見た目をとりつくろっても、水晶珠はごまかせません。
元々の外観的姿、内面的な悩み、野望、隠し事・・・。
それらが正しい像として映し出されてしまうのです。
魔法を売る町の中でも、この店にしかない、
超・貴重な伝説の魔法の一品でした。
そして水晶珠が間違った答えを出したことは
ただの一度もありません。
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店主の魔法使いが言葉を失って立ちつくしておりますと、
宙に浮かんでいるシャンデリアと、
肖像画になっている先祖の魔法使いたちも、
それを見たくなりました。
そ~~~~っと、天井全体で降りて来て、
水晶珠の「ありえない現象」をのぞきます。
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水晶珠に浮かんだ娘の姿は、
今、そこに立っている娘の姿・・・
”そのまま”でした。
寸分の狂いもありません。
それは彼女が、
≪本来の・・・真実の自分、そのもの≫ を、
今、体現して生きているからにほかなりませんでした。
シャンデリアと、三人の肖像画たちは
水晶珠を覗き込み、
驚きの顔を見合わせました。
肖像画の一人が額縁に入ったまま、他の肖像画に尋ねました。
「こんなお客、来たことあった?」
するともう一人が額縁の中から答えます。
「ワシの時? ないない!」
さらにもう一人も額縁の中から答えます。
「ワシの時も、ないない!」
するとシャンデリアも、巨体を左右に揺らしました。
それは「オイラも、ないない!」という合図でしたが、
とうとう店主の魔法使いに見つかりました。
現在の店主である彼は、カウンタ―の中で、杖をピシリ!
と鳴らします。
と鳴らします。
すると一瞬で天井は元通りにされました。
ご先祖の肖像画たちも、しかたなく元の位置に戻りました。
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魔法使いはイラついているのでした。
内部警報がボリュームアップしてきたのです。
#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・
けれども彼はプライド高い魔法使いでありました。
どうやってでも、娘の正体を暴こうと決意し、こう言いました。
「
当店における、魔法商品はたった一つです。
それは目が飛び出るほどの高額魔法。
ただしその他に、
リーズナブルな【消しゴムセラピー】もございます。
「”消しゴムセラピー”?」
娘は不思議そうに訊きました。
魔法使いはニヤリとして続けます。
「お客様の消し去りたい付着物・・・つまり、
消し去りたい想い、
消し去りたい性格、
消し去りたい習慣、
消し去りたい苦痛、
消し去りたい恥、
消し去りたい前世・・・。
これらが
消しゴムのように消える、お手軽セラピーなのですよ」
消しゴムのように消える、お手軽セラピーなのですよ」
娘は相変わらず不思議そうな表情で魔法使いを見つめています。
彼にとってこれは想定内のことでした。
しかし、水晶玉が全く同じ像を呈しているのは、
魔法使いには納得がいきません。
そこで娘に提案しました。
「消しゴムセラピーは簡単な呪文です。
ちょっと試してみませんか?」
娘ピーンチ!!
( ゚ ▽ ゚ ;)→魔法を売る町8
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