「消しゴム魔法は簡単な呪文です。
ちょっと試してみませんか?」
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この物語は魔法使いと少女の物語です。
1~12章(各章20秒で読了可能)
はじまりはこちら→魔法を売る町1
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魔法使いは≪真実の自分、そのもの≫を
生きている人間がいるなど信じられませんでした。
そこで、なんとしてでも娘の正体を暴こうと思ったのです。
◆
娘はとまどった表情です。
彼は娘を誘うように続けました。
「お代のことなら気になさらないで結構です。
うちのフクロウに優しくして下さったお礼ですから」
魔法使いはそう言って、
カウンタ―の端にある、
シトリンでできたアロマパヒューマーに目くばせしました。
(シトリン=黄色いアメジスト:天然石)
(アロマパヒューマー:香りを噴霧する道具)
+◇+◇+◇+◇+◇+◇+
ポコポコポコポコ・・・・
パフューマ―はエレガントな芳香を立てはじめます。
実は【秘密を話したくなる魔法】が仕込まれているのでした。
+◇+◇+◇+◇+
「何か消したいことはございませんか?」
魔法使いは心の中でロープを握っておりました。
それで娘を捉えようとしているのです。
それは彼にとっていつもの商売スタイルなのでした。
来店するどんなお客も同じでした。
誰しも何らかの悩みがあります。
魔法使いは水晶珠をチラチラ見ながら、
そのお客の消したい「何か」を見極めました。
そしてそのポイントに絞り、呪文でうまく消去したのです。
(もちろんかなりな高額でしたが)
どのお客も、一つが”スコーーーン”と消されると、
すっきり気分になるのです。
◆
ところが翌週には別の悩みを消して欲しいと、
この店を訪れるのでした。
消し去りたい想い、性格、習慣、苦痛・・・。
消し去りたい今の人間関係。
幼少期の辛い記憶、前世での辛い記憶・・・。
消しても、消しても芋づる式に、それらは浮上してくるのです。
”Eraser” は極めてリピート率の高い(値段も高い)
【消しゴムセラピー】で、
大変繁盛しておりました。
そして魔法使いは心の中でつぶやくのです。
「ふん、こんな魔法は子どもだましさ。
あの、たった一つの呪文があれば、
こんなものは何もいらない・・・」
◆◆◆◆◆◆◆
店内は【秘密を明かしたくなる魔法】で満たされました。
娘の気道、血液、さらに心臓にまでその魔法は入りこみます。
彼女はうっとりとした表情になり、
シャンデリアを見つめ、フクロウを見つめ、
うるんだ瞳で魔法使いを見つめました。
「もう少しだ・・・・!」
魔法使いは娘の正体を暴ける歓喜で、
頬がわずかに蒸気しました。
ドクドクドクドク・・・・・・・!
心臓も待ちきれずに小躍りします。
+◇+◇+◇+◇+
「これは短い呪文です」
魔法使いは興奮を抑え気味に言いました。
「何か心の中にひっかかっていることはありませんか?」
「ひっかかっていること?」
娘は小首をかしげて考えました。
「そうねぇ・・・」
「なんなりとおっしゃってくださいませ。
これは無料の呪文です」
魔法使いは、娘の次の言葉が待ちきれないくらいでした。
ドクドクドクドク・・・・・・・!
彼自身の心臓がはりさけそうに欲しています。
◆◆◆◆◆◆◆
フクロウは彼の肩にとまったままで、
ぼんやりと娘を見ていました。
「そうねぇ・・・気になっているのは」
娘がようやく言いました。
「この町で一番会いたかったものに、
まだ出会えていないことね」
「そ・・・それは何ですか?!」
魔法使いは珍しく冷静さを失って尋ねました。
娘は ほほえんで答えます。
「それはね・・・・・・龍よ!」
「リュ・・・!!!!」
魔法使いは思わず口を押えました。
それは禁忌の言葉なのです。
彼の中ではしゃいでいた心臓の鼓動に変って、
再び内部警報が始まりました。
#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・・・
口元を押えたままの魔法使いを見て、
娘はさらに、はっきりと言いました。
「私がこの町で一番会いと思っていたのは、龍だったの!」
「リュ・・・!!!!
その名を、そうやすやすと呼んではいけません!」
魔法使いは、今度は耳を押さえています。
「あら?どうしてなの?
この町で龍は珍しいの?」
「ワーーーワーーーー!!!」
魔法使いは半ばパニック気味になりました。
娘の口を、魔法で封じる余裕もありません。
「この町でその名を口にしてはいけない!!」
魔法使いがパニクるのには、それなりの理由があるのでした。
それはこの物語・・・
→ ”魔法使いと小さな龍”
(ウタマロ作品です。検索でどうぞ)
この大事件から、魔法族は巨大トラウマがあるのでした。
+◇+◇+◇+◇+◇+◇+
魔法使いの動揺をよそに、
娘は上機嫌で続けました。
(なぜなら【秘密を明かしたくなる魔法】が効果しているからでした)
「私も知っている呪文があるのよ・・・。
私の”魂における、おばあさん”からそれを聞いたの」
「魂におけるおばあさん?」
魔法使いは”龍”という言葉を恐れるあまり、
適切な魔法を思いつくこともできません。
彼女は魔法使いの動揺には気がつかず、
うれしそうに続けます。
「これが本当に呪文なのかは知らないわ。
それに随分前から忘れていたし・・・。でも不思議よね。
今、はっきりと思い出したの・・・」
娘は目を閉じ、唱え始めたのでした。。。。
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さあて、魔法使いはどうなるのでしょう?!
( ̄▽+ ̄*)
続きはこちら→ 魔法を売る町9