・・・その時でした。
あの重厚な玄関が半透明になり、
お客が一人入って来ました。





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この物語は魔法使いと少女の物語です。

1~12章(各章20秒で読了可能)

はじまりはこちら→魔法を売る町1
(*゚ー゚*)




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・・・その時でした。
あの重厚な玄関が半透明になり、
お客が一人入って来ました。





魔法使いは不意をつかれ、
思わず紅茶をこぼしました。
するとカウンターの下からフキンがこっそり顔を出し、
そそくさと紅茶を拭いて引っ込みました。





◇◇◇◇◇





予期なく入って来たのは、小柄な娘一人。


色白の頬は驚きでほんのり赤みがさしています。
大きな美しいグレーの瞳。
金茶色のカールした髪が肩にかかっておりました。





年の頃は16ほどでしょうか。
まだ幼さを残す顔立ちでした。




小さなスミレがプリントされた木綿のワンピース姿です。
革のショルダーバック、足元は紫色の靴でした。




外はいまだに小雨でしたが、娘は濡れておりません。
これは魔法の雨でしたから。




 
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雨音が女性ボーカルで歌います。

♪♪♪
ルルラ~~~~~~♪
ル・ラララ~~~~~♪

♪♪♪



:::


そして彼女は、頭上のシャンデリアに目をとめています。
言葉にならない喚声が、娘の口元からもれました。





◇◇◇◇◇




魔法使いはじっと彼女を見つめます。
小綺麗な娘ではありましたが、金持ちには見えません。





玄関扉には【金持ちしか通さない魔法がかけられていたのです。
それなのに、なぜこの娘を入れたのでしょう?
何か不具合でもあるのでしょうか?





魔法使いは鋭い目つきで黒塗りの扉を睨みます。
扉はビクッと震えました。




+◇+◇+◇+◇+




娘の視線はシャンデリアからゆっくりと店の内部へ移りました。
その瞳は、興奮と好奇心に満ちていました。
店には【お客を圧倒する魔法】がかけられていたのです。





魔法使いにとって娘は興味を引くお客ではありませんでした。

けれども彼女と目が合うと、
いつもの決まり文句を言いました。




「ようこそ、イレイザーへ」
 
 
 
 
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「ご・・・ごめんなさい。お店の前を通りかかったら、
急に扉が透明になって、気づいたら中に入っていたの・・・」
娘は動揺した声で言いました。



けれどもすぐに笑顔になりました。
そしてあらたまってあいさつします。




「こんにちわ。はじめまして」

「ステキなお店ね。
私・・・魔法の町は初めてなんです。
・・・あらっ!
なんてかわいいフクロウさん!」




娘は魔法使いの背後にいるフクロウに気がつきました。


彼が振り向くと、
眠っているはずのフクロウがしっかり目覚めておりました。




 
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フクロウは音もなく羽を広げ、
止まり木から魔法使いの肩に移りました。
優雅でフワリとした動作でした。



「なんて美しい羽・美しい瞳・・・」

娘はうっとりして言いました。




彼女はそっと歩み寄り、
そのやわらかなフクロウの頬に、
かすかにキスをしたのです。




 
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+◇+◇+◇+◇+




これにはさすがの魔法使いも驚きました。
彼女のキスも想定外のできごとでしたが、
このフクロウが嫌がらないのは、ありえないことでした。





”この娘は何者だ!?”
魔法使いの中で警報が鳴りました。


#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・




 ◆





娘は無邪気にフクロウに話しかけたりしています。
フクロウは静かに首を動かし、
声のない言葉で、それに答えておりました。




魔法使いは思います。




”この娘、どう見ても魔女ではない。
普通の人間だ。
だが・・・何かが違う!!




彼が水晶の珠を覗くと、
それはシラー(虹色)がかかっておりました。
こんな現象は初めてでした。




:::




*開かないはずの扉が開き、
*人間を寄せつけないフクロウがキスを受け入れ、
*水晶珠が虹色の渦をつくり出す・・・・。





:::




たとえささいな現象であったとしても、
「三つが揃う」ということには、
目に見えない者たちからの「サイン」であることを
魔法使いは知っていました。




#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・




そこで彼は、娘に対し慎重な対応をとることにしたのです。




 ◆




「この町には、どのような魔法をお求めでいらっしゃいましたか?」




すると娘はくったくなく答えます。
「私、魔法そのものよりも、天使とか、妖精とか・・・
ユニコーン・・・そういうものに会いたかったの」





それは本当のようでした。
魔法使いが娘のバックを透視すると、
そこには帰りの電車代+カフェ代位しかありません。





「それでお望みのものには会えましたか?」
魔法使いは会話には興味がありません。
それより、娘の正体を探ろうとしていたのです。



 
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+◇+◇+◇+◇+◇+◇+




雨音はモダンジャズを奏で、
ボーカルは優しく歌を続けました。


♪♪♪

ル・ル・ラ~~~~~。
ラ・ルルル・ラ~~~~。

♪♪♪


+◇+◇+◇+◇+◇+◇+



ムードジャズが流れる中で、
魔法使いの心拍はなぜか速くなっていました。



#ピーコン・ピーコン・ピーコン・・・




×・*・×・*・×・*・×・*・×・×・*




次章に続きまっす!
( ̄Д ̄;;→
魔法を売る町6