花巻の西の高台に円万寺がある。そこからの眺望は、市内随一ではないかと思う。幾何学的に仕切られた田園に、水が行き渡ると、春の空を写して、光が反射する。草木が薄緑色に染まり、子供の頃の懐かしい風景画が蘇る。いつのまにか、お玉じゃくしが蛙に変わり、通り過ぎる車に向かって、独唱を始める。田んぼは自然でなく、人が作った日本の風景だ。山間から平地に向かって、緩やかに傾斜し、棚田を形成している。自転車に乗って、行き来すると、分かる傾斜だ。山から吹いてくる向かい風に逆らって、漕いで行くと、温かい日差しも冷たく、鼻水が出てくる。帰りは、楽なものだ。菜の花を摘んで帰る。部屋の中に小さなお花畑ができる。毎年のことではあるが、この時期になると、菜の花を摘みに行く。桜が終わっても、我が家の花見酒は終わらない。