※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。
なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。
〈前回のお話〉
《第101話 心無い一言》
ミナミと池袋駅に行く途中、ユニクロを見かけた。
今度、あそこでバイト用の生地が薄いパーカーを買おう。
渋谷のユニクロでも良いけど……、
「ミナミ」
「なに?」
「また今度、あの技見せてくれないか?」
「あの技って?」
「ほら、ハサミでこのヌイグルミ取った技」
その、袋に入ったクマのヌイグルミは、俺の右手にぶらさがっている。
「しょうがないなあ。じゃあ次に会った時ね」
そう、次に会った時、ミナミと一緒にパーカーを買いにも行きたかった。
それをそのまま伝えるのも何だか言いづらいというか、言葉にできない照れがあった。
ヌイグルミは駅で渡すことになり、俺たちは更に池袋駅へ歩を進めた。
途中、汚れた作業着姿の男性2人が向こう側から歩いてきているのが見えた。
彼らは朝出勤して、汗で顔をドロドロにするまで働いて、今から帰るところだろう。
俺も早く彼らみたいに働けるようになりたい、という『憧れ』の気持ちが少し前はあった。
でも今はもう、働けるようにならなきゃという姿勢に変わっていた。
それは大きな進歩だった。
彼らに並んだら、ミナミに言おう。
俺がこういう病気で、何年間もニートだったけど、働けるようになったんだ、と。
そう思い、作業着姿の人たちとすれ違った矢先のことだった。
「ああいう人たちって可哀想だよね~」
ミナミが俺の耳元でボソッと言った。
【第102話に続く】