竹内智恵子著「昭和遊女考」「 鬼灯火の実は赤いよ」 | お散歩日記

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路地裏、バラック、長屋、昭和の香りがする飲食街、遊郭赤線跡地、廃墟、古い町並み、山奥・・・・そんな場所を訪れては下手糞な写真を撮っております。

母恋うてベソかく妓(おんな)まだ十四
念仏は遊女の身には釣合わず
二十年廓ぐらしの秘めた過去
黄金虫ほんとに倉を建てたかや
父母(どどがが)は女郎の娘を恥じて居り
緋の衣着て堕胎(ながさ)れる遊女の子
※緋の衣=鬼灯火(ほおずき)。
恐ろしや大門外は娑婆地獄廓の中は遊女天国

大門と浮世をはばむ厚い壁
おひきずりあざ笑うよな娑婆の人(女)
うしろ指さして蔑む嫌な女(やつ)
背中にも目有りあざける他人を知る
恥じなるぞ産まれし子をば捨てられる

昭和遊女考 ヨリ





鬼灯火の実は赤いよ。
根があって葉があってお天道様の陽の下で大威張りだいネ。
その根が、女郎の腹の鬼子追う魔力あるのんに、なして、あんなにキレエな実が成るんだい。
赤い実にも毒はあるろかネ。
鬼灯火の実は、赤いよ。
ゾゾ気する程、きれくて赤いよ。


鬼灯火の実は赤いよ ヨリ








拙ブログ読者女史より薦められた竹内智恵子著の遊廓文献二冊を読了す。





「昭和遊女考」未來社 平成元年七月三十日発行




「鬼灯火の実は赤いよ」未來社 平成三年五月二十日発行








二冊とも会津若松市生まれの著者が、東北地方のある遊廓(「北の都」と表現されている)の昔遊女八人へ取材した内容を纏めた著書。著者の主観を交えずに、昔遊女の朴訥とした語りが主となった構成になっている。





昔遊女への取材期間はなんと十二年に及び、その後も交流が続いていると言う。当時、著者が取材した昔遊女八人の内、最高齢は八十八歳、若い人は六十四歳。昭和七年生まれの著者の年齢を考えれば、取材した昔遊女は何れも人生の先輩であり、最高齢の方とは親子、或はそれ以上の世代の開きがある。





長年東北地方の民俗学や民話昔話の発掘に携わってきた著者、故に昔遊女が語る東北地方の方言をそのまま文字として表現している。此処に何とも言えぬリアリティが宿り生々しい。現在も辛うじて各地の遊廓赤線地帯に残る妓楼跡や古地図を俯瞰しても、この辺りは中々伝わって来ない。言霊の威力であり、重みであると感ずる。









遊廓に関心のある女性へ特にお薦め出来る作品。
猶、鬼灯火(ほおずき)の毒は、遊廓内に於いて言わば儀式化されていた堕胎(鬼追い)時に用いられる秘薬、とされていた。