下記の記事は日経グッディ様のホームページよりお借りして紹介します。(コピー)です。

 

食べ物が変色したり、金属がサビたりするのは、大気中の酸素に触れて起こる「酸化」が原因だ。この酸化が体に与える負荷、「酸化ストレス」は、老化やさまざまな病気の原因となり、脳では認知症の一因となることが明らかになっている。つまり、脳内の酸化ストレスを減らせば、認知症を予防できる可能性があるということだ。本特集では、酸化ストレスが認知症発症の重要なファクターであると説く国立精神・神経医療研究センター病院長の阿部康二さんに、認知症予防に役立つ「脳の抗酸化対策」について聞いていく。

『「脳の酸化ストレス」を抑え、認知症を遠ざける』 特集の内容

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アルツハイマー病の発症に、脳内の「酸化ストレス」が関わっている

超高齢社会を迎えた今、いかに健康寿命を延ばすかが多くの人の一大テーマとなっている。そのために「できれば避けたい」と願う病気の1つが、アルツハイマー病をはじめとする「認知症」だろう。高齢化が進むにつれて認知症患者は急増しており、2025年にはその数は700万人になると推定されている。

アルツハイマー病は、「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質が脳に蓄積して発症する。近年はアミロイドβを除去する薬も開発され話題を集めているが(この薬については後述します)、アミロイドβの蓄積を抑える予防薬はまだ存在しない。

だが、近年の研究から、運動や食生活、睡眠などの生活習慣が認知症の発症リスクに影響することが明らかになっている。後で詳しく解説するが、認知症は高齢になって突然発症する病気ではなく、それ以前の20~30年という長いスパンで進むことも分かってきた。当然、そこには生活習慣が大きく関係してくる。そこで、いま注目を集めているのが本特集のテーマである「酸化」だ。

国立精神・神経医療研究センター病院長の阿部康二さんは、「いま注目されている認知症対策の1つが、過度な酸化によって脳の細胞の炎症を起こす酸化ストレスを抑えることです」と話す。

酸化とは、身近な例でいえば釘がサビたり、リンゴが茶色く変色したりする現象のこと。そして酸化を引き起こす活性酸素という物質が増えすぎ、体に悪影響を及ぼすことを「酸化ストレス」と呼ぶ。阿部さんの研究グループは、脳が酸化ストレスを受けることでアミロイドβの蓄積が活発化し、アルツハイマー病が進むことを解明。逆に、酸化ストレスを抑えればアミロイドβが減る可能性があり、アルツハイマー病を抑制することも不可能ではないと説く。

釘がサビたり、リンゴが変色したり…。この酸化と同じような現象が脳で起こると、認知症発症の一因となる。(写真はイメージ=123RF)

脳は多くのエネルギーを必要とする「小さな巨人」

そもそも「酸化」とは何か。「酸化」がなぜアルツハイマー病につながるのか。気になる脳と酸化の関係を知るために、まず脳の特徴について見ておこう。

阿部さん曰く、脳には酸化が起こりやすい性質があるという。

脳は重さ約1.3~1.5kgと、体重が60kgならその重量の約2%にすぎない小さな臓器だ。それほど小さいにもかかわらず、脳は多くのエネルギーを必要としている。

「脳には心臓が拍出する血流量の15%が流れていて、体全体の酸素消費量の20%に当たる酸素を使っています。エネルギーのもとになるブドウ糖に関しては、肝臓が産生するうちの80~90%も消費します(下図)。脳は小さな体で莫大なエネルギーを必要とする、小さな巨人』なのです」(阿部さん)

脳は小さい割に多くのエネルギーを必要としている

(阿部さん作成の図を一部改変)

脳は全身に指令を出すという重責を担うため、多くのエネルギーを使うというのはうなずける。中でも今回注目したいのが、脳は大量の酸素を消費することだ。「脳ではたくさんの酸素が使われるために酸化が起こりやすく、それが認知症発症の一因であることが明らかになっています。かといって脳への酸素供給量が減れば酸欠状態になってしまうので、酸素は“もろ刃の剣” なのです」と阿部さんは話す。

認知症を疑わせる症状が出るころには、すでに後戻りできないところまで進んでいることもある。だが、阿部さんによると、そこまで進行する前なら予防するチャンスは十分あるという。

「アルツハイマー病は脳内で何らかの変化が生じてから発症するまでに25年かかり、発症後は10年ほどで亡くなると考えられています(詳しくは後述します)。言い換えれば、発症するまでの25年間、認知症予防のチャンスがあるわけです。その25年の間に、脳の『サビ』の原因であり、アミロイドβの蓄積などとも大きな関係のある『酸化ストレス』を少しでも抑えれば、認知症の発症リスクを低減し、健康寿命を延ばすことにつながると考えられます」(阿部さん)