下記の記事は婦人公論.jp様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

 

医師の鎌田實さんは、感染症や認知症の予防につながる体づくりを今こそはじめてほしいと警鐘を鳴らします。「アフター・コロナ」と「人生100年時代」を見据え、《死ぬまで自分の人生を楽しむ》ために生活習慣の見直しを図りましょう(構成=福永妙子 撮影=本社写真部)

外出自粛による《肥満》と《フレイル》

4月から始まった長い自粛期間を経て、今も新型コロナウイルス感染予防の制約やルールのもと、これまでとは違う日常が続いています。僕が名誉院長を務める長野県の諏訪中央病院も感染者を受け入れていたので、院内感染対策の徹底のため大変な緊張感に包まれていました。今はようやく、落ち着きを取り戻しつつあるといったところです。

読者のみなさんやご家族のなかには、感染予防のためにしばらくは病院に行くことを控えようと考える方も多かったのでは。そして実際、むやみに病院に行かずとも、自分の健康は自分で管理することができると気がついた人もいるのではないでしょうか。僕も、長年内科医として、できるだけ薬に頼らず、食事と運動で生活習慣病を防ぐことを提言し続けてきました。

ところが、ここにきて心配なことが。病院の内科外来を訪れる人たちに2つの傾向が見られるのです。ひとつは肥満。もうひとつが、フレイル(虚弱)です。

 

外出自粛による運動不足に加えて、家で過ごす時間が長くなるとストレスもたまりやすい。そこで、ついつい甘いものを口に入れたくなるし、過食にもなる。そういう生活が続いた結果の肥満です。

普段から健康に無頓着だった人ばかりでなく、それまで健康を意識して生活してきた人たちが、真面目に自粛を守るうちに……というケースもあるでしょう。

そして、高齢者に目立つフレイルとは、心身の活力が低下して衰えている状態のことで、健康な状態と要介護状態の中間に位置します。自粛生活で体を動かすことが少なくなると筋肉の萎縮が進み、体のあちこちでフレイルが起こり始めます。閉じこもりがちの生活で社会とのがりがなくなることで、心の機能にも虚弱が起これば、うつになることもあるのです。

《コロナ肥満》や《コロナフレイル》を甘く見てはいけません。肥満は、高血圧や脂質異常症、動脈硬化などを生じさせやすく、さらには糖尿病や脳卒中なども引き起こしかねない。僕が最も危惧するのは、認知症になる人が一気に増えるのでは、ということ。体や心の虚弱状態を放置すれば、いずれ要介護ということになるのです。

今は認知症でないからといって油断できません。自宅で生活をしながら週に1回デイサービスに通っていたというような人が、外に出る機会を失い、その後、一気に本格的な認知症に進行していく可能性もあります。まさに今、フレイル段階で踏みとどまるのか、要介護状態へと進んでしまうかの瀬戸際にあると言えるのです。

また、新型コロナは感染しても症状が出ない人が多い一方で、重症化して死に至る場合もあることが注目されました。持病を持つ高齢者だけでなく、若くても、肥満や高血圧の人が重症化するケースが見受けられます。

WHO(世界保健機関)が中国政府と合同で行った調査によれば、新型コロナの致死率は3.8%ですが、高血圧の人だと8.4%に上がります。ですから、新型コロナ対策としても、肥満やフレイルには十分に注意しなければいけないのです。

《不健康な地域》を日本一の長寿県に

新型コロナとの付き合いはまだまだ続くでしょう。自粛は解除になり、外出はできるようになっても、「三密は避ける」「ソーシャル・ディスタンス」などなど、いろいろな面での制約がある。感染の第二波、第三波への対策を取りながら、この1~2年をどう乗り切るかが、5年後、10年後、20年後のあなたの健康状態を左右するということを肝に銘じてください。

脅かすわけではありませんが、新型コロナに感染しなかったとしても、メタボから脳卒中になって要介護、あるいは寝たきりに──今回のコロナ禍で、そんなことが起きるのを僕は恐れるのです。

そうして多くの人たちがどっと介護保険を使うようになると、必要な人が必要な介護サービスを受けにくくなり、《介護崩壊》につながります。ですからみなさんには、病気で入院や治療が必要となる日をできるだけ先送りするために、健康についての意識を変え、毎日の習慣を見直していただきたいのです。

 

基本となる三本柱は「食事」「運動」「生活習慣」──。僕が日頃、実践していることをご紹介しますが、その前に僕が住む長野県についてお話ししましょう。

長野県はもともと脳卒中が多く、《不健康な地域》でした。後遺症でまひが残ったり、認知症を発症したりして、要介護状態の人もたくさんいたのです。46年前、この地に赴任した僕は、地域のみなさんを巻き込みながら健康づくり運動を進めました。その結果、今や長野県は日本トップクラスの長寿県です。一人ひとりが意識を変えれば、必ず変われるということが証明されました。この時の健康づくりのノウハウは、今も僕自身の生活のベースとなっています。

まず「食事」ですが、脳卒中予防のキーワードは《減塩》と《野菜摂取》。当然、高血圧を引き起こす塩分の過剰摂取は控えなくてはなりません。また、野菜に多く含まれるカリウムにはナトリウムの排出を促して血圧の上昇を抑える働きがあり、減塩と同じ効果が。

厚生労働省は1日に350gの野菜の摂取をすすめています。長野県の健康づくりも、野菜をたっぷり入れた《具だくさん味噌汁》を推奨し、野菜摂取量を上げたことで成功しました。

僕は毎朝、野菜ジュースを作って飲むのを習慣にしています。その日冷蔵庫にある野菜をミキサーに入れ、それに牛乳かヨーグルト、さらに血液をサラサラにしてくれるえごま油を小さじ1杯ほど加えて混ぜます。

朝のジュースで目標の6~7割は摂取できるので、昼にサラダ、夜に野菜の煮物をいただけば、1日の必要野菜量は達成できるのです。ちなみに調味料は、わが家ではナト・カリ調味料(ナトリウム/カリウム比が低い塩、醤油、味噌など)を使っています。

これだけは続けたい健康習慣〜基本の三本柱〜

【1】食事

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健康に長生きするためにも、新型コロナから身を守るためにも、高血圧を予防することが大切。

 

「減塩」と「野菜をたくさん食べること」のふたつで、鎌田先生は少し高めだった血圧が正常値に戻ったそうです。

 

【2】運動

 

鎌田式ワイドスクワット

下半身を効率よく鍛えることができる「鎌田式ワイドスクワット」で、肥満を防ぎ、筋力を維持。脚とお尻の引き締めに効果絶大です。

 

さらに「かかと落とし」「速遅歩き」「コグニサイズ」もあわせて、スキマ時間に行うことが無理なく継続する秘訣。

 

【3】生活習慣

脳の活性化には、新しいことへの挑戦、社会への参加が必須です。人に会うことが難しくなったけれど、鎌田先生は早速リモート会議を導入し、介護施設への医療物資支援と感染症対策の指導に尽力中。

参考文献: 鎌田 實『認知症にならない29の習慣』(朝日出版社)

70歳を前に体力の衰えを感じて

僕は今、72歳ですが、3年前、ずっと70kg台前半だった体重が80kgまで増えてしまって。体は重いし、体力の衰えも感じました。

そこで、講演会でみなさんに推奨してきた「鎌田式ワイドスクワット」や「かかと落とし」を、これまでのように「ときどき」ではなく、毎日続けることにしたんです。

3年経った今は体重9kg減の71kg。太もも3cm、ヒップ3cm、ウエストは9cmほどサイズダウン。毎年スーツを仕立てていただいているテーラーさんに、「先生、サイズが変わりましたね。いいですよ」とほめていただきました。おなかまわりがスッキリすると、おしゃれも楽しくなります。

 

「運動」の効果は体重を減らすことだけではありません。筋肉の強化によりフレイルを予防できますし、血糖値を下げ、高血圧予防にもなります。

僕が実践している「スクワット」は下半身の大きな筋肉を鍛えます。鎌田式は背骨が曲がらないように動作し、足裏全体で床を踏みしめることと、膝を曲げたとき、膝がつま先より前に出ないことがポイント。筋肉が動くときに分泌される物質「マイオカイン」には、認知症のリスクを下げる働きがあることもわかっています。

あわせて行ってほしいのが「かかと落とし」です。まず、椅子の背などにつかまってつま先を上げてかかとで立つ。次につま先を下ろすと同時にかかとを上げ、最後にドスンとかかとを落とすというもの。

かかと立ちは鎌田式の特徴です。高齢者がわずかの段差でも転ぶのはつま先が上がっていないから。かかと立ちし、向こう脛の筋肉を強化することでつま先が上がりやすくなり、転倒予防になります。

つま先立ちでは、第二の心臓と言われるふくらはぎの筋肉が鍛えられ、全身の血流がよくなります。最後にかかとをドスンと衝撃を与えるように落とすことで、骨を作る骨芽細胞を刺激し、骨密度のアップが期待できます。

さらに、「速歩き」と「遅歩き」を交互に繰り返す「速遅歩き」もおすすめです。運動に慣れていない人でも取り組みやすく、効率よく脂肪を燃焼し、筋肉を強化できます。

僕は妻と一緒に、自宅から車で10分のところにある尖石遺跡まで出かけ、そこの原っぱで速遅歩きをしています。〈速歩き3分+遅歩き3分〉を2セット行い、最後に〈速歩き3分〉で終了、計15分。これだと無理なく続けられます。

ほかには、足踏みをしながらしりとりや計算をする、という運動もいいですよ。腿上げをしながら3の倍数で手を叩くなども。

この、頭と体を同時に働かせる運動を「コグニサイズ」と言います。これは、短期記憶を保持する脳の前頭前野の働き「ワーキングメモリ」を刺激する運動で、認知症予防になるだけでなく、判断力や適応力の強化にもがります。

「スクワット」「かかと落とし」、そして「コグニサイズ」も、道具は必要なく、いつでも、どこでもできるのがいいところ。僕は、テレビを観ながら、歯を磨きながらなど、「ながら」で、ちょっとした合間を見つけてやっています。大事なのは続けることなのです。

今は熱中症が心配な時期ですが、筋肉は水分の貯蔵庫。筋肉がないと体内で水分を保持できず、熱中症のリスクを高めます。この夏を乗り切るために、運動で筋肉強化をはかりたいものです。

好きなことを続けて、実りある人生を

「食事」「運動」とあわせて大事なのが、「意識と生活習慣を変える」こと。歳をとると意欲が低下し、行動範囲は狭くなります。自粛生活をきっかけに、引きこもりがちになった人もいるでしょう。けれど、脳を刺激するために、いつもと違うことに挑戦してほしいのです。散歩の道順を変えてみる、それだけでもかまいません。

また、社会とのがりを持つことも忘れてはいけないことです。僕は歌手のさだまさしさんと一緒に「風に立つライオン基金」を立ち上げ、介護現場にマスクや医療用ガウンを贈る活動をしています。感染症が増えているイラクへの支援も始めたところです。自粛期間中も、連日、さださんたちとリモート会議。社会の役に立てることを見つけ、できることをやる。ステイホームでも退屈する時間はありません。

僕も歳を重ねていくなかで、人の名前がなかなか出てこなかったり、書斎に資料の本を取りに行ったのに、目に留まった別の本を夢中になって読み、ふと、「何をしにここに来たんだっけ」と思ったりすることがときどきあります。認知症は他人ごとではありません。だからこそ、体や脳のための健康習慣を続ける努力をしようと改めて思うのです。

 

認知機能の低下に気づいたのが僕個人の危機なら、この新型コロナは私たちみんなにとっての大いなる危機です。この危機をプラスに転じ、人生を最後まで楽しく生きられるようにするにはどうすればいいか、一人ひとりがそれを考え、行動するきっかけになるのが今だと思います。

3ヵ月という自粛生活を通し、テレワークなど、働き方の改革も一歩進みました。買わない習慣に慣れたことで、「モノはそんなになくても暮らしていける」と気づいた人も多いでしょう。精神的な満足を優先するなど、新たな価値観を手に入れた人もいるかもしれません。

今後、さらなる価値観の大転換が起きる予感がしますが、何をするにしても、心と体のパワーが不可欠だということに変わりはない。僕は80歳になってもイラクの難民キャンプの子どもたちの診察をしたいし、90歳を迎えてもゲレンデで滑れる体力を維持していたいと願います。最期までピンピン生きて、ヒラリとあの世に行く……。ピンピンヒラリ、「PPH」です。

歳をとっても、ひとりでレストランに行き、好きなものを注文して食べる。ときどきは日帰り温泉でゆったり時間を過ごす。やりたいことは人それぞれでしょうが、そんなふうに心と体を動かすことができるのがPPHです。

繰り返しになりますが、コロナ時代へと突入した今の過ごし方が、2年後、5年後、さらには数十年後の未来にがります。今日から筋肉や健康の貯金をはじめましょう。自分で決めたルールのなかで、自分の健康は自分で守る──このことをしっかり実践していけば、人生はより実りあるものに変わっていくはずです。

構成: 福永妙子

撮影: 本社写真部

 

出典=『婦人公論』2020年8月11日号

田實

医師、作家

1948年東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任し、長年地域医療に携わる。チェルノブイリ、シリア、東日本大震災の被災地支援に精力的に取り組む。