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新型コロナウイルス新規感染者数に先行する指標として筆者が以前よりウオッチしている東京都発熱相談センターにおける相談件数(発熱相談件数)が、年明け後に急増している。1月17日はCOCOA専用ダイヤルを含めて5102人になった。

データをさかのぼれる2020年10月30日以降の最多水準である(図1)。この動きにやや遅れて都内の新規感染者数は一段の増加となっている。先行指標がいつピークをつけて減少に転じるかを、当面注視したい。

■図1:東京都の新型コロナウイルス新規感染者数、発熱相談件数

(出所)東京都

 

東京都医師会の尾崎治夫会長は1月11日の定例記者会見で、「ワクチンを2回打てば大丈夫というのは、オミクロンでは通用しない」「3回目のワクチンを打つまでは、PCRや抗原検査で陰性を確認した上で会食や旅行をしてほしい」と述べて、警戒を促した。岸田文雄首相は同日に行われた全国知事会の平井伸治会長(鳥取県知事)らとのテレビ会議の席上、高齢者への3回目のワクチン接種(ブースター接種)実施について、ペースアップを強く要請した。

日本を含め、オミクロン型やデルタ型への当面の対応措置として、人々にブースター接種を促している国は多い。だが、新たに出現した変異型に対して既存のワクチンの接種を重ねていく対応の適否を疑問視する声も出ている。

欧州連合(EU)の規制当局である欧州医薬品庁(EMA)は11日、新型コロナウイルスワクチンのブースター接種を繰り返すと免疫力が低下する可能性があるという警告を発した。EMAのワクチン戦略の責任者であるマルコ・カバレリ氏は記者会見で、「追加接種は臨時措置であり、短い間隔で接種を繰り返すのは持続的な長期戦略とはいえない」と指摘。4カ月ごとに追加接種を繰り返すと人体の免疫系に負荷をかける恐れがあるとした。

ワクチン接種疲れも背景に

また、世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルスワクチンに関する技術諮問委員会が同じ11日に公表した声明は、既存ワクチンのブースター接種を繰り返す戦略は適切でも持続可能でもなく、オミクロン型さらには今後出現が予想される変異型に対しても効果を発揮できるようワクチンを「更新していく必要があるとみられる」とした。

なお、ブースター接種を含めて新型コロナワクチンの接種で先行してきており、4回目の実施に着手したイスラエルでは、3回目の接種率が頭打ちになっているという報道が出ている(2021年12月31日付 毎日新聞朝刊)。

オミクロン型の感染拡大をうけて、イスラエル政府はワクチン接種を強く促している。だが、3回受けた人は人口の約4割強にあたる約420万人にとどまり、4回目は「今のままでは不発に終わる可能性もある」。「専門家からは『ワクチンへの信頼低下や、接種疲れが背景にある』との指摘も出ている」という。ワクチンを接種しても感染する「ブレークスルー感染」が多発すると、副作用を我慢して接種してもあまり意味がないと考える向きが増えてくるのは、不思議なことではない。

一方で、変異型に対応するための時間をより長く確保することにつながる、ポジティブな動きもある。ある独バイオ製薬大手は11日、新たな変異型のリスクについて人工知能(AI)を活用して迅速に判定する技術を開発したと発表した。変異型の遺伝子データを解析し、免疫をすり抜ける能力や感染しやすさを、早ければ数分で評価できるという。

オミクロン型の強い感染力ゆえに感染者数が急増して来院および入院する患者数の増加につながる一方、医療従事者側では濃厚接触者の隔離などから欠勤者が増えることから、医療体制の逼迫が起こりやすくなっている。

また、 オミクロン型への感染の場合はデルタ型と違って無症状者や軽症者が多いとはいうものの、発熱すると心配になって医者に診てもらおうとする人は、当然増える。NHKは15日、新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、都内のクリニックでは急増する発熱外来への対応に追われて、一般の外来の診療に影響が出始めていると報じた。

最近の新型コロナウイルス関連の動きでは、米バイデン政権のファウチ首席医療顧問が発した「最終的にはほとんどの人が感染すると思う」というコメントも、筆者には特に印象的だった。

ファウチ首席医療顧問は11日、「オミクロン型のこれまでにない感染力の強さによって、最終的にはほとんどの人が感染すると思う」「根絶はできない」と述べたと、日本テレビが報じた。新型コロナウイルスへの感染を完全に抑え込むのではなく、ワクチン接種など重症化を防ぐ十分な対策を取り、ウイルスとの共存を考える新たな段階に「近づいていると思う」とも発言。共存を前提にした新たな国家戦略が必要になると指摘した。「ウィズコロナ」への米国の一層の傾斜を求めた形である。

 

感染急拡大、無症状の多さが影響か

同じ11日の記者会見でWHOのクルーゲ欧州地域事務局長が、オミクロン型について、現在のペースで感染拡大が続いた場合、同事務局が管轄している中央アジアの一部の国々を含む欧州では6~8週間で人口の半分以上が感染する恐れがあると警告した。これは米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)の試算に基づいた予想だという。

クルーゲ事務局長は、欧州では今年最初の週にオミクロン型以外を含む新型コロナウイルス新規感染者数が700万人を超え、2週間前と比べて2倍以上に増えていると指摘。うち26カ国では「毎週人口の1%以上が新たに感染している」と述べて、ウイルスの拡散の速さを強調した。

オミクロン型については、これまでの変異型と比べて無症状の比率がかなり高いことも、南アフリカの2つの臨床試験(治験)の予備的結果から示されている。研究者らは、「無症状感染率が高まったことが、この変異型が急速かつ広範囲に拡散した主な要因とみられる」としている(1月12日 ロイター通信)。症状が出ないので気付かずに普通に行動し続ける結果、他の人へとうつしているケースが多いということだろう。

感染しても無症状、あるいは症状が軽いなら、英国やスウェーデンが新型コロナ危機の初期段階で試したように、行動規制などはあまりかけずに感染者を黙って増やして集団免疫に近づければよいのではないか、という意見が出てきやすいだろう。

けれども、軽症だと診断されたものの、後遺症が長く続いて苦しんでいる事例も少なくないという。新型コロナウイルスとの付き合い方で、大きな方向性は「ゼロコロナ」ではなく「ウィズコロナ」だとしても、あまりに粗雑な当局の対応は望ましくない。

人々の率直な思いとしては、たとえオミクロン型は一般的に重症化リスクが低そうだとしても「かからないにこしたことはない」と考える人の方が多数派だろう。

中国の「ゼロコロナ」はどうなる?

こうした中でも「ゼロコロナ」路線を貫いているのが、中国である。北京での冬季五輪開催が近づく中、複数の大都市で大規模なロックダウン(都市封鎖)を実行している。陝西省西安では、陰性証明の期限が切れていたため病院に入れず寒い屋外で約2時間待たされて死産した妊婦の事件に非難が集まり、当局が謝罪する一幕もあった。1月半ばには北京と上海でもオミクロン型への感染者が見つかった。

オミクロン型の感染力の強さ、そして経済活動に及ぶ悪影響を鑑みると、「ゼロコロナ」を貫徹している中国の方針には無理があるように思われる。北京五輪終了まではこのままの方針で走るとしても、おそらく習近平(シー・ジンピン)国家主席にとり今年の最重要イベントである秋の共産党大会まで、「ゼロコロナ」の方針を維持できるのだろうか。当局のメンツが傷つかない形でそろりと「ウィズコロナ」への路線転換が模索されるのではないかと、筆者はみている。

上野 泰也

みずほ証券チーフMエコノミスト