現場主義の競争戦略 / 次代への日本産業論(藤本隆宏著 / 新潮新書)
日本の製造業悲観論を超えて
自信を無くしつつある日本の製造業に 『活』 を入れるというか,
もっと元気を出せよ的なエールを送る内容です.
ベースは藤本先生の講演内容を書籍として編集し直したもので,
これまでの主張を平易に分かりやすくまとめています.
まずは,『広義のモノづくり』を理解すること,
これは設計情報の創造,転写,発信のことです(p.121).
「良い設計の良い流」を作ることでお客さんが喜び,
こちらも儲かり,雇用も確保できる状態を作りだすことが
『広義のモノづくり』です.
単にモノをつくるだけがモノづくりではないということ.
そう考えると,単純にモジュラー化が有利であるとか,
海外生産にシフトしないとコストで負けると云った
発想で悲観論に陥ることは無くなります.
併せて,『設計の比較優位』を意識する必要性が説かれています.
製品を作る前にはその製品を設計する必要があるわけで,
設計の視点からも日本の得意とする「摺合せ型製品」にもまだまだ分があると言えます.
安易にモノづくりの狭い視点からのみ考えてしまうと,
その全体を加味すれば優位性を持っていることを否定してしまう間違いが起こります.
筆者が言いたいことは,世間で騒いでいる国内のモノづくりの空洞化や
コスト高の生産による競争力低下はそれほど悲観的にばかり捉える必要は無く
,昨今の競争環境の変化(例えば高騰する中国での人件費,
生産効率はまだまだ日本には遠く及ばない現状)や
時代の流れ(日本のモノづくり企業が厳しい環境でも生き残っている事実)を
加味して適切に考えなさいと言うことだと思います.
更に大事なこととして,モノづくり現場の組織能力と
製品現物のアーキテクチャを動態的に分析して,
その「相性」を見ることがあげられます.
ここから未来の産業競争力を分析できるとすると,
現場力が強い日本にもまだまだものづくりにおいて
生き残れる可能性は十分にあるということです.
筆者の主張は一貫しており,
悲観論に走りすぎている日本のモノづくり力は,
マスコミやメディアで言われているほどどん底ではない,
モノづくり現場の力を適切に把握してうえで,
本社(ただし,欧米に比較すると機能として弱い課題は残る?)が
適切に経営を切り盛りすることが重要だということです.
製造業に身を置く方は勇気づけられる内容だと思いました!