迷わせ鳥 | 伊豆高原 遊リゾートのちーさん

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伊豆高原 遊リゾートの貸別荘(アートロード・ロイヤルハイランド・レイクタウン)です!

伊豆のあなたのお部屋としてのご利用をお待ちしております!

せきばあさんの畑は、富戸(ふと)の海が見下ろせる

小高い岡の上にありました。


三方を雑木林に囲まれ、木々の葉は海から吹き上げる

風で、さわさわと波打っていました。


せきばあさんは、トンボ笠(そまつな笠)をかぶり、朝早くから

畑の草むしりをしていました。


その背中は、出揃った緑色の麦の穂の中に、見え隠れして

いました。


迷わせ鳥


                      山本 悟


風が吹く度に右に左に大きく揺れ、のこぎりのようなぎざぎざ

の穂先が、せきばあさんの首を痛めつけました。


キヨキヨキヨ。。


突然、青葉の茂みから早口で甲高い鳥の鳴き声。

その鳴き声は澄み切った青空を駆け抜けて行きます。


ピピピピ


しばらく間を置いて、これもまた甲高い鳥の鳴き声。


雄のホトトギスと雌のホトトギスが、お互いを呼び合って

いるのでしょうか。


ちーさんのブログ
ホトトギス yahoo画像より


いつもぺタをありがとうございます音譜

ペタしてね


せきばあさんは、そんな鳴き声も耳に入らないのか、丸めた

ままの背中を、ひょこひょこと動かし続けました。


雑木林から侵入して来た山芋に似たトコロのつる、

スギナ・カヤツリグサ・スベリヒユ・ママコノシリヌグイ。

中にはせきばあさんさえ名前を知らないような雑草が、麦に

絡みつくようにはびこってました。


せきばあさんは、草むしりが終わると、腰にさしていたかまを

引き抜き、畑の回りのチガヤを刈り取りました。


やっとのことでのばせた腰。


せきばあさんは左手で握りこぶしを作り、手の甲でトントンと

腰をたたきました。


その時でした。


トッタンカケタカ


今まで風の音さえ素通りしていたせきばあさんの耳に、全く

突然甲高い鳥の鳴き声がとびこんで来ました。


「おめえ、ホトトギスだろ。たしか今、父(と)ったん欠けた(死んだ)

かった鳴いたな。」


せきばあさんの体は、こきざみに震えました。


トッタンカケタカ


ホトトギスはもう一度甲高い声をはりあげました。


「こうしちゃおられん」


せきばあさんは、右手に持ったかまをその場に放り出し、坂道を

まるで転がるようにして、一息に駆け下りました。


「なんだばあさん。そんなこええ(恐ろしい)顔して。トンボ口(戸口)

に立っていたおじいさんが、不思議そうな口ぶりで聞きました。


「こん畜生!ホトトギスめ。人を迷わせる悪いやつだ。」


言ってしまうと胸はすっとして、せきばあさんはおじいさんの後を

追うようにして慌ててトンボ口をくぐりました。


その話はいつか村中に伝わり、富戸の人達はホトトギスの

ことを迷わせ鳥と呼ぶようになりました。


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富戸(フト)の海



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