ライトノベル『これが答えだ!』

ライトノベル『これが答えだ!』

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第十二話

1 修司は友人が少なかった。他人とかかわることがそもそも好きではなかった。ある日、いつものように仕事から帰ってきて、彼は自分が絶望的に損な性質を有しているのではないかと考えた。寂しいという一言は、彼のこの絶望を表わすのにはあまりにも単純すぎるように思われた。彼は自分の精神的虚無感が何に由来するのか、懸命に考えた。

 その結果、彼が出した答えはいともシンプルだった。人間は、他人とかかわることによって、快楽も得れば不快にもなる。ここから人間のタイプが二つに分岐する。一つは快楽の方が多いと考える者。もう一つは不快の方が大きいと考える者。前者は恐れず、次々に他人とかかわろうとする。後者はその反対である。そして彼によれば、自分は紛れもなく後者なのであった。

2 こたつで生野菜を食べ、ビールを飲んだ。そしてまた考えた。快楽や不快というものは各個人の内面で湧く感情であるから、コントロール可能である。私は他人とかかわって不快になることが多いと自分で思っているが、それは気持ちの持ちようで、変えることができるのだ。

 では、どうすれば変えることができるのか。彼はパセリをかじった。

「たとえばこのパセリをかじって苦い!嫌だ!と感じることもできるが、旨い!好きだ!と感じるように意識することも不可能ではない。旨いとまで思うことはできなくても、栄養の味がする!健康になれる!好きだ!と思うことならできる。人間とは、なんと自由な存在であろうか。」

 そうであるならば、と彼は考えた。ここでいよいよ彼は人格改造に着手した。過去の不快だった人間関係を想起し、そこで経験した事実を逐一思い出した。そして、その事実に対する認識の方法を改めようとした。

 なかなか困難な作業だった。現象に対して咄嗟に起こす快不快の反応は、いわば人格の既定の部分の信念に関わることのように彼には思えた。仲良くなろうとして声をかけ目を逸らされた場面、くだらない愚痴を延々と聞かされた場面、いたずらで暗い部屋に閉じ込められた場面。それらを快いと感じるために、彼はでっち上げた肯定的感情、より正確には肯定的言葉を何千回と繰り返し、脳裏に染み込ませた。

3 そんなある日、仕事の休憩中にコンビニで雑誌を眺めていると、隣にいかにもナンパな服装をした男二人が、談笑しながらやってきた。酒も入っているらしいことは臭いで分かった。修司は思った。

「なんて自己の欲望に誠実な人たちだろう。しかも私の大好きなお酒の香りを漂わせている。会話も大変楽しそうである。きっとこの人たちは幸福を感じているだろう。なんだか隣にいる私もウキウキした気分になってきた」

 そして彼らの会話の中で現れた、バンピとかシラフとかいうのをスマートフォンで検索した。

「何て便利な文明の利器だろう」

それらはナイトクラブの名前だということが判明した。

「これも何かの縁だろう。今日は缶ビールを止めて、ナイトクラブに出かけてみるとしよう」

 その日はちょうど金曜日だった。仕事を終えた彼は、適当に自分受けする服装を整え、腹ごしらえをし、初めて海に連れて行ってもらった子供のような気分で、ナイトクラブの列に並んだ。