一つの公演をうつということは人同士の濃密な時間の集合体だ。
当然人が50人近く集まれば様々な事件が起こり、そして忘れられていく。誰にも語られることのないままに・・・。忘れたいこともあるだろう。忘れたくないこともあるだろう。
だから俺は忘れてはならないことをここに筆記する代弁者、語り部であろうと思う。
(主に本人がとっとと忘れて欲しい恥部な出来事において)
題して、
忘れてはならない!永劫残すぞ!貴様の恥部をなッ!!
双生じんたち。開幕。
・伝統芸能はかく語りき。
TPCの公演には由緒正しく伝わり続ける伝統芸能があることをご存知だろうか。存じないのも無理はない。その伝統芸能は俺が作ったからだ!
TPCの伝統芸能・・・それは、前説で噛む、もしくは言わなくてはならない注意事項をすっとばすことだ。
吉田が前説で噛むことは最早デフォルトだっただけに、今回配役が決まった時一番嬉しかったのは”前説をしなくて済む”ということだった。なんと後ろ向きな姿勢か。いい加減にしろ!
話が逸れた。
今公演の前説はABキャストの島田である阿部、大森の両氏が行った。
俺が噛むこところを散々見てきた阿部氏は勿論、大森氏も皆に気を付けろ!緞帳前には魔物が棲んでいると脅され続け、さぞや練習してきたことだろう。入場開始前の客席では常に発声、滑舌、セリフの涙ぐましい努力を続ける二人の姿がそこにはあった。
が、しかし。積み重ねてきた努力とは常に報われるとは限らないものである(嬉々として)。
それは公演初日。たっぷり特盛ツユだくの緊張を背負う大森氏が壇上に上がる。壇上に上がるまでの数段しかない階段を一歩一歩登るに比例するように、客席のざわめきはナリを潜める。登れば登るほど静けさと注視する視線が増す。
その姿はまるで海を割る直前のモーゼのようだったと後に人々は言った(多分)。
そして始まる前説・・・。かの低い渋みのあるエエ声が会場を包む。順調な船出に思われたその時・・・!
沈黙・・・!圧倒的、沈黙・・・!
とんだ・・・!前説のセリフが・・・!flyawayした・・・!
圧倒的スピードで伸びるアゴ・・・!さらに、尖る鼻・・・あご・・・!(多分)
シャツや下着は滴る汗を吸い重く大森氏にへばりつく!(多分)
笑いが漏れ始める場内・・・!
袖から「これで一人前になったな!」と拍手を贈る俺(ヤな奴)!
永遠に思われた沈黙は、大森氏の光速よりも速い速度で回転させた脳が思い出させた前説のセリフで再開された。
なんと頑張ったで賞の拍手までお客様に頂戴していた。
良かったね良かったね大森氏(生暖かい眼)。
ん?阿部さん?あーなんか阿部さんも楽日に飛んでたよ。
はい次。
・頑張る男、そして悲運の男
下北沢の稽古場、西大島の稽古場、そして公演場所である俳優座劇場に遠方遥々栃木から通いつめた頑張る男がいる。
「いやー朝五時の電車には乗ってますよーはははーいざなさーん」というよくわからない会話のタイミングで人の名前を呼ぶ男・・・。
その名は舘野友憲(B銀二)という。そう!舘野なのだ!
なにを鼻息荒く強調してるかといえば、当日パンフレットで名前を書き間違えられる悲運な男を紹介したいからだ。それも今回が初めてではない!前回に引き続き今回も『館野友憲』と記載され、その優しげのある目から涙が零れたとか零れてないとか。ま、前回の当パン作ったの俺なんだけどねー。
この男の悲しげエピソードはこれだけに留まらない!
一人旅でアメリカに渡る→空港から街までにタクシーにさっそくボラれる→ショックでその日はコーラしか喉を通らず日がな一日中ホテルでふて寝する→次の日もボラれる。
という、社会の荒波に揉まれまくった悲運な男がいる。
きっと今回もまた俺の目の届かぬところで悲運を一手に引き受けているのだろう。
あぁ神よ、彼に一滴の人生の潤いを・・・とか勝手に祈ってたら、打ち上げ二次会会場が彼のジョジョポーズのオンステージ会場になっていたからまぁいっか。
ちなみに公演中より彼は輝いてた。
はい次。
・関西人なんやなぁ
吉田の親父はTPCの中で指名手配犯と化している。
なにがというと、端的に言って”酒を持ち込む”からだ。
多くの芝居小屋がそうであるように俳優座劇場もご多分に漏れず飲食禁止を謳っている。無論酒もダメだ。
その中で親父は男の意地を張らなくていい部分で張りたがる。酒を持ち込むのだ。
数居るお客様の中で唯一ボディチェックを受ける男。それが吉田の親父だ。
受付で制作を担当している美和さんは張り切って吉田の親父を待つ。だが、今回は開演時間ギリギリになってしまったようで、最寄りのコンビニに行く時間がなかったようだ。ボディチェックをしたがブツの発見には至らなかった。
が、しかし!本公演は一幕と二幕の二部構成であり途中、休憩を挟む。
親父が劇場外に出ていくのを見逃さなかった美和さんは、
「ははぁ~ん。これはコンビニにブツを仕込みに行ったな(ニヤリ)」
と、ベテラン刑事よろしく親父の動向を推察する。
書いてて思うけど、これなんの戦いの記録なのだろうか。俺の恥部じゃね?
まぁ細かいところには目を瞑り、続きを綴ろう。
休憩時間も終わりが近づき、親父が劇場内に帰ってきた。どこか満足気な顔をしていたと後に美和さんは言う。
「お父さん、はい」
直接的な言葉はもういらないと判断した美和さんは親父に向かい手を差し出す。
「持ってない、本当だ・・!」
「ホントですかぁ?(持っているのだろう的な笑みを浮かべ)」
「本当だ・・・!もう・・・入れてきた(体内に)!!」
『はッ・・・!それでは取り締まれない・・・!』
「くっ・・・どうぞ・・・」
と、こんなやりとりだったと後に美和さんは語った。
そして、こう付け足す。
「確かにこれだけ言ったのだからトラブルを持ち込まなかった事は純粋に嬉しい・・・」
「だけど、吉田父なら・・・吉田父ならそれでも持ってきてくれるだろうと期待してたのに・・・」
ボケとツッコミのように、ツーと言えばカーのように・・・。
なんとなく、そう言い残して去っていく美和さんの背中には哀愁が漂っていた。
関西人やなぁ・・と、僕はタバコを一吸いした。
ほげほげ
