前回の続きです
「前に勧めたことあったよね?●●って映画おもしろいから是非観て、って」
忘れていたけど、確かに会った時に映画の話を散々されて、その中で●●を勧められたことはうっすら記憶にあった。
でも、勧められたからといって観るとは限らないじゃない。
「そうですけど。別に私観るって約束もしてないし。勧められたら観なきゃいけないんですか?」
「俺はただ、うさちゃんが俺に小説を勧めてくれたから、同じように映画を勧めたんだよ。少しでも趣味を共有したいと思ったから。お互いの好きなものを理解しようと思うのは普通のことだと思うんだけど」
「そうだとしても、観る観ないは自由だと思います。さっきの発言は勧めるというより強制に聞こえます。人生損してるなんて、今まで生きてきて誰にも言われたことありません。本気で腹が立ってます。訂正してください」
「謝ろうとは思わない。むしろ俺としてはそのうさこさんの言葉遣いにドン引きだわ。そんな人だと思わなかった。気性が激しいんだね。よくわかったので、もうこれで関係を終わりにしましょう」
………。
「終わりにしよう」
この言葉、まさか相手から言われるなんて。
最後に私から捨て台詞として吐いてやりたかったのに。
呼び方も今までの「ちゃん」付けから「さん」に変わっている。
すうっと怒りの感情が消えて、急激に冷めたのがわかった。
もう、何の興味もなくなったというか。
この人に対してあれこれ考えることが無駄だと思った。
相手もきっと同じように思ったことだろう。
「私も同じこと言おうと思ってました。もうこれ以上やり取り続ける意味がないし、これで終わりということで」
そう返してブロックしようとしたら、またすぐに返信がきました。
「借りてる本返したいんですけど、郵送で送りたいので住所教えてもらえますか?個人情報教えるの嫌だと思いますけど、悪用するつもりは毛頭ないので」
そうだ忘れてた!小説貸してたんだった…
しかもそれは私のものじゃなくて父のだったから、返さなくていいとは言えない…。
かといって住所なんて絶対に教えたくない!
そこで私は。
「会社に送ってください。宛先は●●●●」
「わかりました。できるだけ早急にお送りします」
個人的なことに会社の名前を使うなんて最低だと思います。
でも会社名は伝えてあったし、家の住所を教えて嫌がらせされるより…と考えていました
その後私は毎日、郵便が届く時間になると速攻所属課のポストを覗きに行っていました。
誰かに見られたら大変だから
5日くらい経った頃だったかな、住所と私の名前が印刷された茶封筒がポストに届きました。
裏に修一さんの名前はあるものの、住所は書かれていませんでした。
中を開けるとプチプチで丁寧に包まれた小説がありました。
もちろんそれ以外に何のメモもあったりはしませんでした。
これで全て終わった…。
なんともいえない脱力感。
これまでの数ヶ月、一体何だったんだろう。
何だか凄く虚しい気分になったのを覚えています
やっぱり私は見る目がない。
最初に違和感があった時点で終わりにすれば良かったのに。
そうすればこんな嫌な終わり方しなくて済んだのに。
完全に自己嫌悪に陥って、自分を責めました。
でもやっぱり、「人生損してる」っていうあの発言は許せるものじゃなかった。
人としてどうかと思うし、今こうして思い出していても腹が立ってくる笑
皆さんはどう思いますか…?
そして、すっかり修一さんのことなど忘れていた、およそ2年半後。
夫と訪れた結婚式場のブライダルフェアで、修一さんと彼女らしき人を見かけたのです
見紛うはずもない、きっちり固められたオールバック姿。
隣の彼女は大人しそうな、従順そうな女性でした。
あぁ、きっと修一さんはこういう人と合うんだろうな、と思いました。
向こうは多分気付いていなかったと思うけど、もし私と夫の姿を見ていたら、同じように思ったのだろうか。
きっと結婚したであろう修一さん。
彼が今幸せなのかどうかはどうでもいいけれど、数ある式場の中で奇跡的に再会(?)したこともあり、ある意味今でも忘れられない、そんな人です
おわり