こういう時でも私はのんきにラーメンを食う。
ニュースキャスターの声は私の箸を止めるのに充分な効果があった。
相手の心臓を高ぶらせる、そんな方法を知ってるかのように思えてきた。
だんだんとのんきに食べてる場合じゃないって思えるようになるくらい。
「あたしさ、自慢じゃないけど、こうやって仲良しのお友達に食事をおごってあげるのが今の幸せなのよ。」と、
年配の女性が外国の血が入ったような若い綺麗な女の子に、延々と語り続けている。
女の子は聞いてるのか聞いてないのか、感謝してるようにも見えず、麺をすする音で掻き消してるようにも見える。
ホントに仲良しなのか、よくわからない。
「あっまた地震。あたしさ、福岡にお友達いるのよ。電話しなくっちゃ。」
深夜2時。
明らかに電話の着信で起こしただろう友達にまた延々と「防災グッズ」を持っているか確認している。
それよりいざという時のために今は寝かしてあげたら。
隣の二人が気になり、ラーメンの海苔がスープを一気に吸って、私好みじゃなくなってしまってることに気付かなかった。しっとりとしてしまった姿を箸で掬い始めた。
今あれくらい大きな地震が来たら、このラーメン屋にいる人たちとその時どうなるだろう。無事に助け合えるだろうか。
我先にと逃げていかないだろうか。
今は一瞬にして形を変えてしまう。
未来はわからない。
まるで一気にスープを飲み込んだ海苔のように、ある時急に変わってしまうものなのだ。
その時隣の人とお互いを助け合っていけるだろうか。
どんなに高台に家を建てようと、
入社案内の時に会社の海抜について自慢されようと、備えあれば憂いなしだが、
それよりも。
未来はわからない。
その時誰と手を繋いでいるかなんてわからないのだ。
今を生きていくことのはかなさ。
しけった海苔は私の口へ運ばれた。
一瞬一瞬の今の中で姿を変えながら、最後は私の身体になった。
こんな時でも食べることができる。
生きることに貪欲なのだ。
予測出来ない今をはかなくも懸命に生きている。
神のみぞ知る。
ラーメンは完食した。
明日のための私のエネルギーに変わった。
この店の人たちと助け合うことはなく、私は新しい今のために店を出た。