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文春の記事は、日本医科大学元学長であった丸山千里博士の研究と治療の記事であり、次のように書かれていた。
「 ……
症例のひとつは、当時55歳の男性で、昭和36年に、上唇に癌が出来、一度手術で取り除いたが、また出て来てしまった。今度手術をしたら、顔がなくなってしまうと思ったので、丸山ワクチンを使ったところ、ほぼ完全に治ってしまった。
もう一つは、現在77歳の女性で、昭和42年3月胃の後壁に手拳大の癌があり、とても切り取れる状態ではないため、応急処置として空腸に孔をあけ、そこに腹からゴム管をさしこみ、流動性の人工栄養を入れるようにして、閉じてしまった。こうして退院したのが5月26日だった。余命は、あと20日か1ヶ月くらいの診断だった。
ここで、患者の家族が、丸山ワクチンの話を聞き、6月9日から治療をはじめたところ、8月17日には口からふつうに食べられるようになったが、大事を取り、丸山先生に診察をお願いしたところ、日本医大第一外科で検査をしてくれて、全治と診断、そのままゴム管を引き抜いた。
その後の3年経過も実に良く、人に話しても、信じてもらえないような状態だ。
……
更に「幽門癌、肺癌、結核への挑戦」「らいへの挑戦」「癌への挑戦」と続き「どうして効くのか」には、次のように書いてある。
……ある人は、
「それは、自然治癒なのではないか」
しかし、癌研究所内科の古江尚部長は、
「自然治癒というのは、10万回に1回くらいの割でしか起こらない。日本で報告されているのは、まだ4、5例です」
という。丸山ワクチンを使ったガン患者は、まだ千人に満たない。すると、前にのべた症例は自然治癒とはいい切れない。また古江部長は、
「レントゲン写真をたくさん見せてもらいましたが、写真を見ただけで、明らかにガンといえるのがあり、それが明らかに治っています」
という。同じ癌研の桜井欽夫(よしお)化学療法部長は、
「あのワクチンがどうして効くのか興味をもっているが、理論的にアプローチできない。その免疫作用がわからない。しかし、話にならんというわけのものではない。やはり免疫のグループにははいるものだと思う」
……
原因は分からないが、効果のあることは確かであると、関係した次の人達も認めていると書いてある。
癌研付属病院の黒川利夫院長、東大薬学部の水野伝一教授、東大の皮膚科、川村太郎教授達だ。
結核病学の大家、岡治道元東大教授は、
「あれがどうして効くかはわからないが、効くことは確かだ。そのメカニズムがわかったら、まったく新しいワクチンの方向ができるね。あれは君、日本よりもドイツの方が認めているんだよ」
という。
……
さて、話はまた日本に戻って、当の丸山先生に聞いてみると、
「私にもわからないんです」
とニコニコしながらいう。
「私は臨床家ですから、患者さんを治せばいいんです。どうして効くかという研究まで手を拡げたら、からだがいくつあっても足りません。ところが、ここに、思いがけない現象が起こってきたのですよ、それが、この三枚のスライドの写真です」
……
こんな具合に、症例から治癒例が次々と続き、最後に、
「癌予防のために」と続いていた。
この記事を読んだ私が、日本医科大学へ行って見ると、ここは、何処にでもある病院の窓口とほとんど変わらなかったが、待合室へ入って見ると、その混雑振りは、想像を越えていた。
狭くもない部屋なのに、僅かな人達が椅子に腰を降ろしているだけで、ほとんどの人達が立っている。
病院の待合室とは違って、元気な人達ばかりで、通りの雑踏の中に立っているような雰囲気だ。
やがて、続けざまに名前を呼ばれて次の部屋へ入って行くと、やせ形の小柄な医師が立っており、1冊の薄いパンフレットを渡された。
「皆さん。私を囲むように、ここに半円形にお並び下さい」
いわれるままに、呼ばれた人達が半円形に並んで立つと、早速医師の話がはじまった。
「私が丸山です。
つい最近まで、私は、ここに来られた方々を、おひとりずつお呼びして話をしておりました。
けれども、最近は、ここに来られる方々が多くなりましたし、私のワクチンの効果がはっきりして来ましたので、私は自信を持ちまして、今では、こうして30人ずつお呼びして話をするようになりました」
一通りの挨拶と自己紹介が終わると、ワクチンの次のような説明がはじまった。
ー私は皮膚科を専攻しているが、たまたま結核菌から抽出した物質であるワクチンが、結核の治療に効果があることに着目して研究を続けて来たところ、菌の形が似ていることから、らいにも効果があるのではないかと気づいて研究を続けているうちに、らい患者が癌にかからないことを発見した。
そこで、もしかしたら、このワクチンは、癌にも効くのではないかと考えて使ってみたところ、予想外の効果を見ることが出来たー
こういいながら、傍らのシャウカステンに、次々にエックス線写真を貼り出しては、その効果を説明する。
「癌は治らない。癌になったらおしまいだという考え方は、もうしなくとも良くなりました。
今では、癌は、死病だという考え方はしなくとも良いんです。
すべてとはいえませんが、この中の何パーセントか、しかも半数以上が、他の病気と同じように治ると思えるところまで進みました。
今のところ、統計の上では、半分までとは行きませんが、確かに直っています。
ですから、癌は、怖い病気ではなくなりました。皆様は、癌も治るんだという希望を持たれるよう、お願い致します」
聞いている人達の中から、感動の声がもれて来た。
意外というよりも、信じられない話だ。
これまで、日本ばかりではなく、世界ですら、癌が治るなどの話は聞いたことがない。ところが、ここでは治るという。
文芸春秋の記事以上の話ではないか。
「私は、専門が皮膚科でしたので、このワクチンを癌に使うまでは、癌の症例は、皮膚科の他には、僅かな数しか知りませんでした。
そして、私のワクチンが、皮膚科以外の癌に効果があることを知りまして、これを、皮膚科以外の癌に使うために、改めて癌関係の資料を読んでみました。
ここで、はじめて気づいたのですが、癌には、治癒とか完治という言葉は使われていないんですね。
どんな言葉が使われているかといいますと、1年後、2年後、3年後の『生存率』という言葉が使われているんです。
医者として、こんなことも知らなかったことは、私としては、本当に恥ずかしいことでしたが、癌は、治癒とか完治などの言葉が使えない程、恐ろしい病気であることを改めて知りました。
こればかりではありません。10年後、20年後の生存率の記録はないんです。
ということは、私がここで申し上げるまでもないことですが、癌に効く薬は、まだ出来ていないということです。
私は、この事実を知りまして、本当に驚きました。
癌とは、こんなにも恐ろしい病気なのかと、改めて考えました。
これは、私よりも、ここにおられる皆さんの方が、よくご存じかと思います。
ところが、私のワクチンを使いますと、完全に治る、治癒、完治が見られるようになりました。
生存率などというものではなくて、今ここで見て戴きましたように、癌そのものが、消滅しているんです。
陰がなくなってしまっているんです。
完全に、なおってしまうんです」
ー本当だろうかー
私は、聞きながら考えた。
この話が本当だとすれば、これまで、どうしようもないと考えていた私の癌も、このワクチンのお世話になれば、もしかしたら、治るかも知れないと思えて来た。
更に話が続く。
「ここに来られる人達は、末期的な方がほとんどですから、完全治癒とまでは行きません。このワクチンが、どんなに効果があるとはいいましても、癌にやられまして、既に失われてしまった肺や肝臓や腎臓や膵臓などの臓器は、新しくは出来ては来ませんから、手遅れになりまして、機能を失ってしまった場合にはどうしようもありません。
ですから、手遅れにならないうちに、ここに来られれば、60パーセント以上は治ります。 皆さんに認めて戴けるような統計がありませんので、はっきりしたことは申し上げられませんけれども、早いうちに、この窓口へ来られれば、私が個人的に作りました統計では、90パーセント以上は治ると思います。
しかし、研究発表というのは、はっきりした数字がないと出来ませんから、この話は、ここでしか出来ません。
今、90パーセント以上といいましたのは、どうしても、効かない患者が、二,三パーセントはありますから、仕方がありません。
これは、別の方法で治せば良いと思います。
ところが、主治医の方々が、このワクチンを使うことに、なかなか同意してくれないんですね。
それで、手遅れになってしまうんです。
それでもです。
不幸にして手遅れになりまして、患者が亡くなられる時ですらも、あの癌特有の苦痛は、100パーセントなくなります。
それに、副作用がありませんから、意識もはっきりしたままで亡くなります。
100パーセントですよ。
これは間違いありません」
またまた感動の声が上がった。
癌の末期には、ほとんどの人達が、耐え切れない痛みに襲われる。この痛みをモルヒネなどで止めれば、意識が薄らぎ、見舞い客との話も満足に出来ないとの話がある。
薬で痛みを止れば、痛みを感じる神経を麻痺させると同時に、他の神経も意識も麻痺してしまうからだ。
こうした人達が、100パーセント安らかに亡くなることが出来るとは、何という素晴らしい薬だろう。
普段でさえ、100パーセントとか、絶対などの話は、誰もしたがらない。自分の知らないところに、何があるかが分からず、責任が持てないからだ。
たとえ分かっていても、科学の世界に、100パーセントなどの数字は、そんなにあるものではない。
誰でも、自分の仕事や研究に、100パーセントなどの言葉を使ってみたいが、使えない。
ところが、日本医大の学長まで経験した医学博士が、自信を持って、100パーセントという言葉を素直に使っている。
ここでいわれる100パーセントとは、単純な100パーセントではない。60パーセント以上の患者を快復させ、それでも快復出来ない残りの人達をも見捨てずに、最後の苦痛を取り除いてくれるということだ。
つまり、残りの40パーセントの人達を、最後まで見守って、快復に導き、それでも快復出来なければ、痛みを与えずに、静かに見送ってくれるという。
何という素晴らしい薬だろう。
周囲の声よりも、私自身が驚いた。
「ここで、最も大切なことは、ワクチンを使われる時には、決して抗ガン剤を使わないで戴きたいことです。
もともと、このワクチンは、人間の細胞を活性化させるものですし、抗癌剤は、細胞を叩くものですから、ワクチンで元気になろうとしている人間の細胞も一緒に叩いてしまいまして、逆効果になってしまいます。
逆効果になって、効かなくなるだけなら、まだ良いんですけれども、抗癌剤は、ワクチンを使った方の病状を、かえって悪くしてしまいます。
この他に、副腎皮質ホルモンもよくありませんし、放射線治療もよくないですね。
他の薬は、何を使われても結構です。抗生物質を使われても良いですし、解熱剤、鎮痛剤、栄養剤などでしたら、どんなものでもかまいません。
ところが、効かないといわれる方々のほとんどが、ワクチンと他の抗癌剤とを一緒に使われているんですね。
私が、繰り返しこういっているのに、一緒に使ってしまいますから、逆効果になりまして、ちっとも効かないという話になってしまいます。
当然のことです。
併用すれば、両方を使わないよりも悪化します。
恐ろしいことです。
ですから、これだけは、決してお忘れにならないよう、くれぐれもお願いします。
それに、このワクチンの良いところは、全く副作用がないことと、何処に注射をしても、害がないことです。
注射は、皮下でも、筋肉でも、静脈でも結構です。どこに射して戴いても、害はありません。それに副作用がありませんから、長期間使って戴いても、どんなに重症の方でも、安心して使って戴けます。
気をつけて戴きたいことは、ここにありますAとBとを、1日おきに、交互に注射して戴きたいことです。
これは、別の薬ではなくて、同じものですが、濃さが違っただけのものなんです。
これを、どんなにするかは、まだ結論は出ておりませんが、暫くは、これで行こうと考えております。
今、私のワクチンと似たような薬も作られてはおりますが、強い副作用がありまして、使うことが難しいんです。
この副作用をなくすために、私は長い時間をかけまして、ようやく出来上がりました。
こんなことで、これを打ちますと、元気が出ますから、私も時々自分の腕に刺しております。
これを打ちますと、ほんとに元気が出るんですね」
何か、恥じらう子供のような顔で、にっこりと笑われた。
説明が終わると、並んでいる30人の1人ひとりから話を聞き、それに答えて行く。
「そうですか。そしたら、そこに公衆電話がありますから、早速連絡されて、主治医の方の承認を受けられたら、すぐにワクチンをお持ち帰り下さい」
「はあ、痛みますか。
それでは、看病される方も大変ですね。
このワクチンを使えば、患者は痛みが取れて、眠りますから、看病される方も休めます。
早速使ってやって下さい」
聞いていると忙しい。既に末期状態になって、どうしようもなくなった患者の家族がほとんどだ。
それに、北海道から九州まで、全国の人達が集まっている。
やがて私の順番が来た。
「お宅の方は、どんな症状ですか」
「はい。私が患者です」
「ええ? あなたが患者さん?
あなたご自身が、患者さんですか? 」
意外という表情だ。
「はい」
私が説明しようとすると、右手を挙げて、私の話を遮られた。
「そしたら、ちょっと、そこでお待ち下さい。後でお話をしますから」
後まわしにされてしまった。
さて、どうなることかと、丸山先生の話を聞いていると、ここには患者は一人もおらず、末期か危篤状態の患者をかかえた家族がほとんどだ。
「主治医の先生が承諾されなければ、主治医の方に、私が直接電話しますから、そこの電話で、そうお話しして下さい。
今すぐ、私が話して上げます」
救急病院のような忙しさだ。
(つづく)
