水洗タンクの上
タンクが無言でこちらを見つめてくる。
こういったタイプのタンクは、たいてい遥か頭上に鎮座してたりするもんだが、ここのトイレときたら平均的日本人男性の目線の位置にお出迎えである。
もちろん水を流すためのレバー(大・小選択可)が付いてたりはしない。
何が本気かは知らないが、本気で水を溜めるタイプのタンクである。
水を溜めて下ろすだけ。
そのタンクが我々の目線こと、下界に降りて来てくれている。
そしてそれ故に貼り紙の土台としても使われているようだ。
あんたも大変ねぇ状態である。
どれほどに、このタンクが天女の如く低い位置に舞い降りてきてくれているか、それをお伝えするためにかなり引いた図で写真を撮りたいところだが、恐ろしいほどにここのトイレの個室は狭い。
そんなにバックオーライ出来るほどの後ずさりするスペースなどない。
ノーバックオーライである。
つまりは残念だが撮れるような状況ではなかった。
引けないのならば、近づこう。
「 お願い
いつも綺麗に使っていただき
ありがとうございます。
排水パイプが詰まりますので
トイレットペーパー以外は
絶対に流さないでください。 」
言っていることはいつもの慣れ親しんだご挨拶。
「いつも」と言っているからには、私の記憶がなくてもきっと私に極似の人が来てわ、毎度毎度舐めるかのように丁寧に使っているのだろう。
きっとそれはそちらの勘違いだと思う。
私はここのトイレと初対面だ。もしくは、私は夢遊病でも患っているのかもしれない。
でも、ここは駅構内のトイレだし、夜遅くになれば改札もいい加減閉じるというもの。
ところで先程から気になっていると思うが、タンクの頭の上に載っているものは笹の葉ではない。
かしわ餅を数ダースほど包むためのかしわの葉でもない。
天狗が片手に持っている葉でもない。
いつもなら遥か頭上のタンクの蓋が壊れているんだろうな、で済む話だが今回のタンクは目の前にある。
考察するに、さては誰かちょうどいいやと荷物でも置いてみたか?
夜空の星には手は届かないが、目の前の水洗タンクには容易に手が届く。
その結果に伴なう破壊であろうか?
せっかくなのでタンクの上の図を撮影する。
隠しきれない補強、隠しきれない破壊されっぷり。
「いつも綺麗に使っていただきありがとうございます。」のイヤミっぷりにギラリと鈍く光る磨きがかかってくる。
そしてそんな補強のテープの上に何かしらタグが乗っかっているのが分かる。
よくよく拡大してみれば、どうやら洋服タグのようだ。
さらに振り返れば、
返事のない手紙。
誰も集まらないOFF会。
雨に濡れたアンパンマン。
診察の後に、家族を呼べるか問うてくる医者。
そこにあるのは中身のない紙袋。
狭いトイレの中で、申し訳程度に設置された荷物置きの台の上にそれはあった。
これだけ荷物置き場が狭いと、水洗タンクの上に荷物を置いてみた人もいただろう。
やはり納得、納得。
トイレの個室というのは用を足すだけの場ではない。
外では購入した洋服などフィッティングして、そのままおしゃれ魔女に魔法をかけられたのようにお着替えする人もいるのだ。
ここで着替えをして素敵な自分に変身された方がいたのだろう。
洋服って人に見られてなんぼだもの。
でも紙袋と書いて、ゴミをそのまま置いて行くのはどうかと思う。
いくら見た目だけおしゃれでも、本当のおしゃれさんっていうのは、心が・・・・
まあ、ネタになったので今回はいいです。
今度から気を気を付けてね。
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「厠イヤミ百景の一景」
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