事の発端は、つい半日前だった。一羽の燕がぼくの所にやって来たんだ。
その老紳士は、ぼくの前に飛び降りるなり名前を聞き、返事をすると、いきなり顔を一発殴られた。
(自慢じゃないけど、ぼくは生まれてから一度だって殴られた事なんかなかったし、しかも初
対面の誰かになんて思いもよらなかったから、どうリアクションしていいのか分からなくて、
その場に立ち尽くしてしまった。・・・それに、とっても痛かったし・・・ゔゔ)
ぼくが呆然としていると、老紳士は冷ややかな視線を向けながら、淡々と語り始めた。
次の瞬間、内容を聞いたぼくは驚愕した。
あの夢のような1週間が過ぎ去ってからの1ヶ月弱の間、スピカさんの身の回りで起こっていた事態は、ぼくの想像をはるかに絶するものだったからだ。
ぼくは閉口したまましばらく二の句が告げずにいた。
すると老紳士は、二言三言ボソボソと言ったあと、スピカさんの居場所を書いたメモを残し、さっさと飛び去って行ってしまった。
(その老紳士さんの第一印象は、すごくダンディな感じで、同性のぼくから見ても本当にカッコ
いいと思ったし、ぼくもあんな風に歳をとれたらいいなぁと憧れを感じたのに・・・なのに、
殴られたっていうことは、あの老紳士さんはぼくの事をあまり良く思ってないってことだよ
ね?・・・っていうか、完全に嫌われているんだろう、きっと。・・・そっ、そうだよね。ぼ
くなんかが好かれる訳ないもんね・・・・・っと、ヤ、ヤバいっ!・・・ま、またネガティ
ブ・モードになってしまった。せっかく性格改善できつつあったのに・・・。やっぱり根本的
な部分は、なかなか変えるの難しいのかな?・・・まあ、そんなこと今はどうでもいい話題な
んだけどネ・・・。でもあの老紳士さんは、スピカさんの一体何なのだろう?保護者みたいな
ものかなぁ?あの時の振る舞いからして、スピカさんのことを大切に思っているというのは、
ぼくにでもはっきり分かったし。だからこそ、ぼくは殴られたんだろうし。・・・スピカさん
にとっては、あの老紳士さんはどんな存在なんだろう?やっぱり大切に想っているのか
な?・・・って、当たり前か。あんなにカッコイイんだもんね。・・・はぁ。あんまり一方的
に詮索するのはやめよう。不安が募るばかりだし、第一、男らしくないもんね、うん)
今、ぼくに出来る事はただ一つ、一刻も早くスピカさんの所へ行って彼女を助け出す事だ。
そして願うなら、この場所でまた、楽しい時間を二人で過ごしたいと思う・・・。
無理な願いかもしれないけれど・・・。
とにかく今は、早くスピカさんに会いたい。
その一心だけだ。