非業の死を遂げた横笛。
三歳の娘は、滝口寺の恵純に
よって大阪新町の置屋の
女将に預けられた。
それから凡そ二年後。
大阪で廻船問屋を営む、宮本
屋長右衛門なる船主が、滝口
寺を訪ねて来た。
長右衛門は、鎖国の日本に
あって数少ない「清船」との
交易を許されていた一人。
住職が5歳年上。共に大阪
天満生まれの竹馬の友。
このころ徳川吉宗は、「享保
の改革」を断行中。
その改革の一つに、「清船打
ち払い令」なるものが。
この令、端的に言えば。
「金・銀・銅」の流出を防ぐ
為、清船の入港を厳しく制限
したもの。
しかしながら、清船の数は
「漂流」を装い。逆に増加
する始末。
江戸幕府は、密航船の摘発を
瀬戸内海沿岸の各藩に命じ
ていた。
大阪湾に出没する清船の
追い出しは、岸和田藩の大事
な役割。
長右衛門が所有する船が、
それを担っていた。
ある日、長右衛門の船が清船
を岸和田港へ追い込んだ。
岸和田藩の役人が、
船の中を捜索すると。
既に船内は、もぬけの殻。
そして大量の銀貨と銀製の
壺が、見つかった。
この時代、「東国の金遣い、
西国の銀遣い」。
すなわち。
江戸は金貨、大阪は銀貨が
主要な流通貨幣。
特に清国との貿易は、銀貨
と定まっていた。
ところが驚く事に。
船内の隠し部屋から、生後間
もない赤子が一人発見され
たのだ。
部屋に母親らしき姿は無し。
藩の役人は、
銀貨と壺だけを持ち帰り。
赤子は、そのまま。
仕方なく、長右衛門が引き取
ることに。
愛くるしい顔立ちの赤子は、
身に着けている衣服から。
清国人の子と、思われた。
「長右衛門から乳児を預か
った私は、大阪新町の置屋
の女将の元へ」
「その子が、もも君。お前さ
んだよ」
と住職の恵純和尚は、
一旦話を終えたのだった。
ところが、ももの出生に纏わ
る話は。それだけではなかっ
た。
恵純和尚は、
一段と声を殺して続けた。
赤子を置屋の女将に預けた
一年後。
恵純和尚と船主の長右衛門
に、大阪東町奉行・稲垣利夫
から出頭の命が下った。
出向いた先は、奉行所の白州
ではない。なんと大阪城内で
あった。
下級武士は勿論、一介の坊主
や商人には無縁の場所。
城内の奥の間で、彼らが謁見
した相手は。
何を隠そう、時の大阪城代
松平正親。
そして城代から明かされた、
驚愕の事実とは・・・
(つづく)
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■
主な登場人(適宜掲載)。
▶すず。饅頭屋の看板姉妹の姉。
▶もも。饅頭屋の看板姉妹の妹(弟)。
▶鰊真岩志。元・町同。隠居探偵。
▶鈴屋双丸。岩志の友人長屋の大家。
▶福丸。すずももの育ての親。置屋の女将。
▶恵純。滝口寺の住職。
▶横笛。すずの実母。公家に仕えた雑仕女。
▶時頼。上冷泉家の息子。出家。すずの実父。
▶宮本屋長右衛門。船問屋・船主。
▶徳川吉宗。8代将軍。
■本作は、ィクション。
登場する地域・人物・組織等の
名称・写真イラスト等、実在の
ものと無関係。
諸制度や時代考証などの齟齬、
ご容赦。
■添削・校正なしで配信。誤字脱字
ご容赦。
鰯の頭
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