今話のシチュエーションは、

北嵯峨(きたさが)の「滝口寺(たきぐちでら)」。

市川由紀乃さんファンなら

誰もが知っている。

あの「横笛(よこぶえ)物語」の舞台。

 

♬ 京都 北嵯峨 滝口寺

女捨てます 今日かぎり あなた

生きて浮き世で 添えぬのならば

迷わず後を この横笛も

明日は着ましょう 墨衣 ♬

<3番の歌詞>

 

 

滝口寺は、あの有名な「祇園(ぎおん)

精舎(しょうじゃ)(かね)(こえ)・・・」の書き

出しで始まる「平家物語」に

も登場する。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

新町(しんまち)遊郭(ゆうかく)置屋(おきや)女将(おかみ)

別れを告げて。

すず(・・)()()の二人は、

嵐山の(ふもと)にやって来た。

 

鴨川(かもがわ)()かる、(とげ)(つき)(ょう)の近く

に宿をとった。

 

川面(かわも)は、色づき始めたばかり

の木々を(うつ)している。

 

♬ 季節はずれの 風鈴の

音も悲しい 石畳

捨てるつもりで 捨て切れず

おもいでばかり 後を引く

せめて逢いたい 逢わせておくれ

今夜は夢で 鴨川の月 ♬

<市川由紀乃「鴨川の月」3番の歌詞>

 

 

 

 

 

宿は、夏の季節なら納涼で

(にぎ)わったであろう「川床(かわゆか)」の

ある宿。

 

すず(・・)(ねえ)ちゃん、アタイどう

しても(はも)が食べたいわ。

折角(せっかく)、京に来たのだから」

と、()()が言うと。

 

「馬鹿ね、鱧の(しゅん)は夏よ」

と、すず(・・)

 

すると、それを聞いていた

宿の仲居(なかい)が。

「お客様、夏の鱧も美味しい

けど晩秋(ばんしゅう)の鱧も中々よ」

 

「夏の鱧は、あっさり。産卵

が終わった晩秋の鱧は、食

欲が増していて、(あぶ)()(ほど)()

く乗って美味(びみ)

 

 

注文したのは、

上質な鱧を丸ごと堪能(たんのう)でき

る「(はも)会席(かいせき)」。

 

付出し・お造り・吸物・しゃぶし

ゃぶ・天ぷら・酢の物・ぞうすい

・水物

 

 

英気を養った二人。

朝早くに宿を発ち、北嵯峨

の滝口寺へ向かった。

 

人里離れた山道を分け入る

と、小さな「(しば)()」が。

そして、想像より(はる)かに小さ

な寺が現れた。

 

本堂で待つこと、一刻(いっとき)

ようやく住職の(えい)純和尚(じゅんおしょう)が、

姿を見せた。

 

江戸の町民の平均寿命が、

50歳の時代。

目の前の和尚は、どう見ても

80代半ば。

すず(・・)()()は、

「仙人なのでは」と思った。

 

 

 

 

すず(・・)が訪問の(わけ)(つげ)げると、

和尚は静かに話し始めた。

 

「お二人を観て、誰だか直ぐ

に分かったぞ」

「そうか。もう二十年の月日

が流れたか」

「で、名は何と申す」

 

 

すず(・・)が、

置屋(おきや)女将(おかみ)さんが付けてく

れた名が、「すず(・・)」と「()()」。

と、(こた)えた。

 

 

「実は、お二人が訪ねて来る

 と。数日前に(ほとけ)(さま)のお()

 げがあった」

 

「お二人とも、悲しまないで

 欲しい。二人の親は、既に

 この世にはいない」

 

「先ず、すず殿の出生を話そ

 うぞ」

 

と、再び和尚が静かに続けた。

 

和尚の口から明かされた、

すず(・・)出生の真実とは・・・

更に、

()()の出生の真実とは・・・

 

 

(つづく)

 

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主な登場人(適宜掲載)。

 

▶すず。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の姉。

▶もも。饅頭屋の看(本当)姉妹(は姉弟)の妹(弟)。

(にし)(んま)(いわ)()。元・町同心。隠居探偵。

鈴屋(すずや)双丸(ふたまる)。岩志の友人。長屋の大家。

(ふく)(まる)。すずももの育ての親。置屋の女将。

(けい)(じゅん)。滝口寺の住職。

 

■本作は、フィクション。

登場する地域・人物・組織等の

名称・写真イラスト等、実在の

ものと無関係。

諸制度や時代考証などの齟齬、

ご容赦。

 

■添削・校正なしで配信。誤字脱字

ご容赦。

 

鰯の頭

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